2024年5月12日(日)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年1月9日

 第十は、世界が一つとなるかである。パリ五輪、宇宙飛行士による月探査等の機会には、イデオロギーの相違が脇に置かれるだろうが、世界が一つとなる希望は打ち砕かれる可能性が高い。

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 今年で38年目となるエコノミスト誌の年末恒例の翌年の予想特集記事である。英国メディアから見た2024年の予想として、常識的な内容だが、子細に見ると注目すべき点はいくつかある。

 24年の予想の前提として、23年を振り返るため、一年前に同誌が23年の予想として提示した10項目を振り返ると、次の通りであった。①ウクライナ情勢、②景気後退、③気候変動、④中国はピークを打ったのか、⑤分断されたアメリカ、⑥一触触発地域、⑦変化する世界の協力、⑧回復する観光産業、⑨メタバースの現実性、⑩新年に新たな専門語。

 23年の予想が外れた点として、第一に、「景気後退」は予想ほど悪くなかったこと、第二に、新たな「世界の協力」としてサウジアラビアのアブラハム合意への参加も言われていたが、中東では危機が勃発した。

 今回の24年の予想で目を引くのは、大きな流れとして、「多極化する無秩序」の時代となり、「手を広げ過ぎている超大国の米国」として対応が困難となりつつあることが示されたことである。ウクライナに加えて中東の危機が起こり、危機の多発に対して米国の能力が明らかとなり、それに加えて、24年11月の米国大統領選挙次第で大きな政策変更が起こりかねない。さらに、ロシア、中国、北朝鮮、イランの連帯の強化、新興5カ国(BRICS)の拡大(アルゼンチン、エジプト、エチオピア、イラン、サウジアラビア、UAEの新規加盟)など気になる動きが起こっている。

 「第一の危機」であるウクライナへの注目度は、トップの項目として取り上げられていた23年に比して下がった。24年には三番目の項目としてヨーロッパ側の対応として掲げられているに止まっている。

 長期戦を覚悟する構えに入っていると想像される。ここでは、外からの支援に焦点を当てているが、長期戦になれば、国内の団結の維持も重要な課題となってこよう。

 23年に勃発した「第二の危機」である中東が、24年には四番目と上位にリストされている。ガザでの戦闘が継続する中、米国の対イスラエル姿勢がどのようになるのか注目されるが、これもウクライナと並んで米国大統領選挙による政策の振れ幅が大きい分野である。

 24年のトップに挙げられているのが、多くの国で選挙が行われることである。エコノミスト誌によれば、選挙が行われるのは人口の多い方から、インド、米国、インドネシア、パキスタン、ブラジル、バングラデシュ、ロシアである。

 一方、影響の大きさから言えば、米国は別として、1月の台湾の総統選挙に注目しないわけにはいかない。これは、東アジアで「第三の危機」が起こるかどうかにも関わる。

中国を見るべき多くの視点

 中国への注目度は、四番目の項目として取り上げられていた23年に比して若干下がった。24年には六番目に「第二の冷戦」として取り上げられている。中国については見るべき視点は多い。

 国内統制や対外的姿勢、経済成長の鈍化、人々の価値観の多様化等、中国にはいくつもの「顔」がある。それらがどのように絡んでいくのか、複眼的に見ていく必要があろう。

 全般として24年の注目リストは暗い話題が多い。その予想が良い意味で覆されることを期待したいが、残念ながら、秩序を作る力より秩序を壊す力の方が強くなっていることを認めざるを得ない現状である。

特集「2024年展望」はこちら

   
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