そもそも智子さんの場合、息子は地元の公立中学に通わせるつもりでいた。ただ、息子が5年生の時、自ら受験したいと言い出したことで、周囲より遅いスタートを切っていた。大手の受験塾は小学4年生頃から先行してカリキュラムを組んでいるため、その後から入るとついていくのが容易ではない。塾の進行に合わせて無理に勉強させるのは、親も子も苦しい。自分のペースで勉強できるよう、個別指導専門の塾に入った。
Wedge ONLINE『中学受験で教育費3000万円?老後が心配で安楽死したい』(2023年10月23日)で書いたように、中学受験を決めた子どもたちは、週に何回かは塾に通い、塾のない日は16時頃に学校から帰宅すると23時頃まで塾の宿題をするというハードスケジュールをこなしていく。
そして大手の受験塾では、授業で難易度の高い問題を扱うことで難関校を目指す傾向が強い。決して少なくない子どもたちが授業についていけずに、併設される個別指導塾に通っている。そのため、小学生の間に400万~500万円を塾に投じているケースも珍しくない。
受験で子どもが潰されてしまう
入試は10回受ければ受験料だけでも20万円はかかる。滑り止めの学校の入学金を支払えばまた数十万円を無駄にすることになる。親と逆の立場から見れば、中学受験は「儲かるビジネス」でもあるだろう。
「受験で子どもが潰されてしまう。中学受験が行き過ぎていると感じました。受験塾の授業についていくための個別指導塾も、ビジネスの対象。難関校に合格するかもしれないと期待して〝課金〟していくことになるのですから」
必死に勉強した智子さんの息子は最終的に希望する中学に合格したが、中学受験のビジネス化を目の当たりにした智子さんは、こう思う。
「難問を扱う大手塾でその波に乗れば『一流の仲間入り』と思ってしまう。受験は親まで正常な判断を失うため、塾が子どもを商売の材料としか見ていないことに気づけなくなるのだと思います。学校側も集金のための入試でなく、頑張っている子どもたちに対して誠実な試験をしてほしいと強く感じました」
都市部を中心に中学受験は過熱しており、首都圏で最大規模の中学受験向け公開模試を行う「首都圏模試センター」によれば、首都圏での2023年の私立・国立中学受験者数は過去最多の5万2600人で、受験率は過去最高の17.86%に達した。今年の受験の動向が注目されるが、ビジネス化しつつある中学受験に踊らされないよう親には受験を冷静に見つめる力が必要とされているのかもしれない。