2024年4月29日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2014年4月28日

 このような状況を踏まえ、米国のあるべき政策について提言したい。

 1)米国議会は米国政府に対し、アジア回帰についての戦略ペーパーを作成するよう要請すべきである。その中で、明確な目標と評価基準を取りまとめるべきである。

 2)立法行為、証言聴取などを通じて、アジア太平洋が米国の利益にとって如何に重要であるかを一般の人々に伝えなければならない。一般のアメリカ人はアジア太平洋について無知であり、民意は孤立主義への初期的傾向を示しているが、それは米国の利益にとって有害である。

 3)フィリピンは中国との間の領土問題を海洋法に基づく国際司法機関をつかって解決しようとしているが、米国はこの動きを支援すべきである。

 4)国連海洋法条約を米国上院は批准すべきである。航行の自由を確保することは米国の利益に適う。中国が国際法を破ったときには、米国政府が相応の措置を取るよう議会は政府に働きかけるべきである、と述べています。

* * *

 グレイザーの証言は、習体制下の中国の対外姿勢、特に軍事姿勢を適格に指摘し、的を射た内容となっています。その上で、「アジア回帰」を単なる言葉だけに終わらせないために、具体的な戦略ペーパーを米政府がとりまとめるべきである、との呼びかけは、傾聴すべき提言であり、日本としても支援すべきものです。「アジア回帰」を空疎なスローガンのままにしておくことは、米国のアジア太平洋地域における信頼性を大きく損なうことになります。

 習体制下の軍と党の関係については、相対的に見て、軍が着実に力をもちつつあるのは、グレイザーの指摘の通りです。つまり、今日の中国のシステムの中では、共産党総書記(兼中央軍事委員会主席)の一部同意さえあれば、軍は文民メカニズムを無視して自由に行動できるということになります。最近の東シナ海でのADIZ設定はその顕著な例と思われます。

 国防費の12.2%増という数字は、党最高指導部が軍の歓心を買うために支出した特別の予算かもしれません。江沢民時代に軍の支持をとりつけるため、軍事予算が増額されたと噂されたことがありました。今日の中国の複雑な派閥間のせめぎあいの中では、軍はいわば一体としてまとまりのある「派閥」であり、軍の支持を得ることが政権基盤を確保するために必要とされているのでしょう。


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