対談

2015年10月24日

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五十嵐泰正・筑波大准教授

五十嵐 東京から離れる避難者については『みんなで決めた「安心」のかたち』でも言及しています。職業や住居形態などさまざまな要因で決まる「移動しやすさ(モビリティ)」の差が根底にあって、農業者や漁業者が象徴的ですが、「土地」に縛られざるをえない人たちほど逃げることができない。

毛利 すぐにオフィスを香港に移す人もいたし、かなり早い段階でモビリティの差が現れましたよね。動けないのはミドルクラスで家族がいて……

五十嵐 日本のいわゆる「メンバーシップ型雇用」といわれる状況では、大企業の総合職に就いている人などは、自分で住む場所を決めにくいです。逆に例えば看護師のような職能者、ブルーカラーでもトラック運転手のような普遍的な「手に職」を持っているような人たちは、意外とモビリティが高くていち早く避難された方もいました。だから必ずしも、単純に所得からみて階層の高い人ばかりが避難したとも限らない。ただいえることは、モビリティの感覚が避難をめぐる「格差」の源泉のひとつだったということです。

毛利 僕の周りで言うと、実際に移動した「ブルーカラー」の人たちの多くは『ストリートの思想』(NHKブックス)で取り上げた、まさにストリートの人たちで、これまで運動の中心にもなったいわゆる文化生産者なんです。小説家や画家のモビリティが高いのは当然ですが、編集者やグラフィックデザイナーといった、パソコンさえあれば東京でなくても仕事ができる人たちもそうですね。クリエイティブ産業、文化産業に従事している人が避難した例は多かったですね。でもそういう人たちはもともと必ずしも経済的に裕福だったわけでは必ずしもない。

五十嵐 そう、だから「金持ちが逃げた」という批判は必ずしも正しくない面があるんです。僕の周りではさまざまな意味での「メンバーシップ」に縛られた人のモビリティが低くて、柏の場合は農家がその象徴でした。モビリティの感覚の違う郊外住民と農家の人たちの感覚の溝を埋めるのが円卓会議の大きな課題だったんです。

毛利 もうひとつの大きなモビリティの問題は、やはり福島第一原発周辺の帰還困難区域です。政府は避難者を戻そうとしているけど、本当は戻るべきではない場所がかなりある。

五十嵐 そこは大雑把には議論できないところです。具体的には、どの範囲のことを指しているんでしょうか?

毛利 帰還困難区域についてはいうまでもありませんが、現在国が避難解除を進めている居住制限地域についても具体的に戻るとなれば、細かくチェックしながら進めていくしかない。実際にきちんと作業が行われているようにはみえないし、そもそもその基準もどうなのかという議論がまずありますよね。もうひとつの問題は、福島県内に限らず宮城県や岩手県に行っても感じるのは、復興が進んでいませんよね。

五十嵐 かなりばらつきはありますよね。

毛利 復興しつつあるのは、政府の肝いりというか、何としてでも復興させようとしているところです。でも例えば南三陸などは厳しい状況に見える。施策者の選択と非選択の差があって、政府は口には出さないけど、本音では復興を諦めた地域もあるだろうと思います。帰還困難区域に関しても、住民が戻って産業も元通りになるとは行政は思っていないでしょう。かといって全部を補償する金もない。そんな状況を隠ぺいするものとして「復興」や「安全」の物語が語られている。

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