WEDGE REPORT

2015年12月17日

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村中璃子 (むらなか・りこ)

医師・ジャーナリスト

医師・ジャーナリスト。東京都出身。一橋大学社会学部・大学院卒、社会学修士。その後、北海道大学医学部卒。WHO(世界保健機関)の新興・再興感染症対策チーム等を経て、医療・科学ものを中心に執筆中。京都大学大学院医学研究科非常勤講師も務める。

 次に、接種と症状の関係を客観的に評価するために、年齢の影響を排除する補正を⾏ったのが表6の右側「年齢で補正」のオッズ比だ。これを見ると、接種群が非接種群より有意に多い症状は一つもなく、むしろ15の症状で接種群の方が有意に少なかった。

 厚生労働省は去る11月27日、全国の医療機関に呼びかけて思春期の疼痛や運動障害に関する類似の調査を行うと発表したが、相当の時間を要すると見られている(研究班長:祖父江友孝・大阪大学大学院医学系研究科社会環境医学講座環境医学教授)。一方、名古屋市は9月から早々に独自調査を開始し、わずか2か月半で結果をまとめて公表した。「症状とワクチン接種との関連性は認められない」という結果は得られたが、名古屋市はワクチンとの因果関係を疑って症状に悩む人たちがいることは重く受け止め、年明けから相談窓口も設置するという。まずは、こうした名古屋市の迅速かつ現実に即した決断に心からの称賛を送りたい。

 12月14日の河村たかし名古屋市長の記者会見も言葉を選んだ配慮あるものだったが、筆者はワクチンを受けていないが似たような症状を呈している人たちの間から不公平感が生じないかなどの不安も感じた。ワクチン接種後に体調不良を訴えた患者さんに対し自治体独自の補償制度をつくった神奈川県では「ワクチンを打っていれば治療費が無料になる」といった噂が立っており、それらしい症状が少しでも出ていれば「ワクチンとの関連性を疑うとの診断書を書いて欲しい」と訴えてくるケースが首都圏の病院で増えていると聞く。

欧州の規制当局は改めて薬害説を否定
日本のメディアのあり方は
グローバルには例外中の例外

 現在、12月1日に科学雑誌『ネイチャー』に子宮頸がんワクチン薬害騒動に関するコメンタリーが掲載された、ロンドン大学熱帯医学研究所のハイジ・ラーソン教授が来日中だ。ラーソン氏はUNICEFのワクチン接種グローバルコミュニケーション部門のトップやGAVI(ワクチンと予防接種のための世界同盟)のアドボカシー特別委員会の議長を歴任した人物。ちなみに夫は同じくロンドン大学教授で、世界で初めてエボラウイルスを発見したピーター・ピオット氏だ。ラーソン氏は12月16日、筆者の取材に答えてこう言った。

「私も海外から日本での騒ぎを2年ほど見守ってきた。日本で最も驚くのは、政府も学会も薬害を否定する中、大手新聞やテレビ局などの主流メディアがこぞって子宮頸がんワクチンの危険性を吹聴するような立場をとること。このようなメディアのあり方はグローバルには例外中の例外だ。そして、もうひとつ驚くのは、あなたが記事で指摘していたように、日本政府が子宮頸がんワクチンの問題を国内に限定したローカルな問題として捉え、海外でも問題視されているという意識に自覚に乏しいこと。欧州ではすでに、日本の騒ぎがデンマークに飛び火し、一部の研究者が薬害説を唱え始めたことに強い警戒感をもっている。そのため、欧州医薬品庁(EMA)は独自に調査を進める事を決定し、11月20日にはワクチンの接種群と非接種群でのCRPS(複合性局所疼痛症候群)やPOTS(起立性頻脈症候群)などの発症率に有意差が無いことを改めて示した。 名古屋市での調査は規模やデザイン、回答率の上で十分に質の高い調査だ。この調査結果が世論にポジティブな影響を与えることを期待している」

 日本のメディアではなぜか専門家であるはずの医者・学会等の見解を「利益相反があるから信頼性が無い」と一蹴する傾向にある。しかし、名古屋市の調査は、医療関係者を介さず、若い一般人女性に直接回答してもらったアンケートに基づくものだ。

 こうした生データの結果すら素直に受け止めずに、記憶力や注意力の低下を「高次脳機能障害を疑う症状」とする報道(NHK中部放送局)や、論理的根拠も示さずに調査のデザインがおかしいなどと主張する専門家や団体の主張を大きく取り上げる記事(朝日新聞など)が散見されたが、このようなメディアのあり方は世界的に見て極めて特異であることに、読者もメディア自身も気づいてほしい。

 今回の報告書は行政の出す報告書としては例外的と言えるほどコンパクトにまとめられている。疫学用語の簡単な解説もついていて、一般の人が見ても十分に理解できる内容だ。今日は是非、メディアの流す二次情報ではなく、調査報告書のリンクを直接クリックして自分の目でデータを確認してみてほしい。

【特集】子宮頸がんワクチン問題

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