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2016年4月7日

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シリア・ハットン、BBCニュース

香港に並び立つ大銀行の脇では、幾重にも並ぶ両替商の店舗が得意とする匿名の取り引きが素早く行われている。

しかし舞台裏では、もっと大規模な取り引きによって、かつてないペースで資金が動いている。中国本土から富が香港の両替商のもとへ流れ込み、さらに国外へと流れ出していく。

中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」からリークされた資料によって、中国指導部の家族がどうやって資金をオフショアで貯めているかが分かった。

資料のすべてを国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)が分析したところ、「モサック・フォンセカ」の業務の3割近くが、香港と中国本土の事務所によるものだと判明した。つまり同社にとって中国が最大の市場で、香港が最も忙しい事務所というわけだ。

経済を不安定に?

「モサック・フォンセカ」の中国事業拡大は、中国の最富裕層がいかにオフショア投資に依存しているかという大きいトレンドの証拠だ。

昨年1年で約1兆ドル(約110兆円)が中国外に流出し、外貨準備高をすり減らした。

この動きは、中国の経済全体を不安定にさせる可能性がある。

そして中国指導層の親族も、海外で資産を貯めているのだ。

元職と現職を含めて少なくとも7人の国家指導者が、「モサック・フォンセカ」が設立したオフショア会社と関わりがあった。7人には、習近平国家主席のほか2人の最高幹部が含まれている。

「パナマ文書」で名前の挙がった中国幹部

<現職>

・習近平国家主席――義兄がオフショア会社2社の会長・株主だった

・劉雲山中央政治局常務委員(共産党序列5位)――義理の娘がオフショア会社の会長・株主だった

・張高麗中央政治局常務委員(共産党序列7位)――義理の息子がオフショア会社3社の会長・株主だった

<元職>

・李鵬元首相(1987~1989年在任)――娘がオフショア会社の会長・株主だった

・賈慶林元政治局常務委員(2002~2012年在任、共産党序列4位)――孫娘がオフショア会社を所有していた

・曽慶紅元副主席(2002~2007年在任)――兄弟がオフショア会社の会長だった

・胡耀邦元中国共産党総書記(1982~1987年在任)――息子がオフショア会社の株主・会長・オーナーだった

挙げられた名前の多くは以前からオフショア金融に関連して報道で取りざたされてきた。しかし、今回の文書漏洩は中国指導部にとって厄介なタイミングで起きた。

オフショア会社の所有は中国では違法ではない。しかし隠れた資産の仕組みが存在したこと自体、中国指導部の家族に対してあらゆる疑問が湧きあがるきっかけとなる。

中国共産党の綱領によると、党関係者は統治する立場から私利を得たりしないよう、清廉潔白にふるまわなくてはならない。そしてその家族も、政権トップとのつながりから私利を得てはならない。

香港城市大学の政治アナリスト、ウィリー・ラム氏によると、習近平主席はこれまで「道徳と清貧において純粋な人」というイメージを掲げてきた。オフショア口座に莫大な資金を積み上げておくという行為は、「確実に習近平の教えや、共産党の有名な決まりごとに違反する」という。

「党幹部の子供たちが資産を不法に得たのかどうかは、中国の司法制度が非常に不透明なため分かりにくい」

資金流出

「パナマ文書」によって、中国のエリート層がどうやって資産を海外に保管しているか、かつてないほどよく分かるようになった。長々と続くメールのやりとりから、政府とつながりのある依頼人のオフショア会社設立を「モサック・フォンセカ」がいかに繰り返し手伝ったかが明らかだ。国際法はこうした場合、依頼人の身元調査を義務付けているが、「モサック・フォンセカ」はその手続きを踏んでいなかった。

たとえば習主席の義兄にあたる鄧貴家氏が2004年と2009年に英領バージン諸島にオフショア会社3社を設立した際、手続きを手伝ったのは「モサック・フォンセカ」だが、同社は鄧氏と中国政界幹部との関係を調査しなかった。鄧氏が3つの会社を何に使ったのかは不明だが、習氏が2012年に国家主席に就任する前に1社は解散し、2社は休眠状態だった。

しかしこれは実に皮肉な事態だ。習氏は主席になってからというもの、党内を対象に激しい腐敗一掃運動を展開してきた。2015年だけで、30万人もの党関係者が腐敗や汚職で処罰されているのだ。

「モサック・フォンセカ」で起きていることは、よそでも繰り返されている。裕福な中国人は香港を出口に、資産を海外へ移動させて守っているのだ。

香港在住の中国アナリスト、アンドリュー・コリアー氏は、「富裕層が資産を中国に置きたくないと思う理由は2つある」と話す。

「中国経済の失速が理由の一つだ。もうひとつは、党指導部による腐敗一掃の動きだ。中国内の資産は安全かどうか分からないという不安から、オフショアに移そうという人がいるようだ」

中国からの資金流出を食い止めたい人たちが注目するのは、香港だ。中国の腐敗対策当局は3月、ほとんどの資金は香港経由で流出していると認め、完全に阻止するのは不可能かもしれないが止めさせるよう努力すると話している。

「パニックになる」

中国から昨年流出した資金のうち、約6000億ドルは金融当局の規制に触れる形で海外に移転した。

中国国民は1人あたり年間5万ドルしか国外に持ち出すことはできない。それ以上は違法だ。

現金を持ち出すために、複雑な送金の仕組みを使う人もいる。

無認可の両替商にその手口を尋ねたところ、中国や香港、ベトナム、フィリピンなど各地で開いている何十もの「ゾンビ」口座に巨額の資金を置き、依頼人の送金をひそかに支援しているのだという。

「ゾンビ」口座とは名義人が死亡したものの閉鎖されずに残っている口座のことで、これを使うことで資金の動きを追っても自分のところまでたどりつかない仕組みになっているという。

「ひとつの国に持っている口座で、依頼人のお金を受け取る。そのお金を依頼人が必要とする通貨にして、別の国の別の口座に移すんだ」とこの両替商は笑いながら説明してくれた。

ただし、人民元を中国外に持ち出したいという依頼はもう受け付けないつもりだという。

「ただでさえ手持ちの人民元がもう多すぎる」と両替商は眉をひそめた。

中国政府が、あなたのような両替商を摘発しはじめて、実際に法律を厳しく適用したらどうなる?

「パニックだ。パニックになる」

マニーミュール――知らずに資金を運ぶ人たち

資金の移動を突き動かすのは、不安感だ。

「金融・経済政策を決める指導部の判断力に対する、信頼がないのだ」とウィリー・ラム氏は説明する。「なので100万や200万米ドルを持つ人にしてみたら、少なくともその半分は海外に留め置かないと、馬鹿な話だということになる。党の未来をほとんど信頼していないからという、単純な話だ」。

大がかりな両替商を使うことができない人たちは、いわゆる「マニーミュール」を使って大金を国外に運ぶ。マニーミュールとは、大金を背負って国境を越える「ロバ=ミュール」の役割を果たす運び屋のことだ。「ロバ」として働く男性に話を聞いたところ、不安な依頼人の資金運び屋として忙しくしていると認めた。

「海外に移住したい人、海外に投資したい人たちを手伝っている。現金を体にくくりつけることもあるし、小さいバッグで運ぶこともある。税関職員はいつも、荷物をたくさん抱えている人や、不安そうにしている人を抜き打ち検査するので、自分はふつうにふるまうようにしている」

では、中国の最富裕層が資産を国外に持ち出すかどうかがなぜ重要なのか?

中国を出た資産はどこかに行かなくてはならない。

この巨額の資産移動は世界中の不動産価格高騰を引き起こしている。中国本土の顧客と海外の販売業者をつなぐ不動産取引サイト「juwai.com」によると、中国人が昨年、海外不動産に支払った金額は520億ドル以上に上る。

香港では、本土からの中国人が高級品を買いまくる。この現象は世界中で繰り返されている。中国の最富裕層は(本当に国の最高レベルにいる人たちも含む)中国以外の場所で資産を使い、保管しているのだ。

この人たちはそうすることで自分を守っている。しかしそのせいで中国の安全が脅かされているのだ。

タックスヘイブンで富裕層や権力者は何を――パナマ文書とは

中米パナマの法律事務所「モサック・フォンセカ」が所有していた1100万点に及ぶ資料を、南ドイツ新聞が入手。同紙はこれを国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)と共有した。76カ国107報道機関からなるICIJには、BBCパノラマや英紙ガーディアンも加わっている。BBCは情報提供者の身元について情報を持っていない。

漏洩資料では、モサック・フォンセカが依頼人の資金洗浄、経済制裁回避、脱税を支援していた様子が示されている。

これに対して同社は、40年にわたり合法に活動してきたし、いかなる犯罪行為の疑いをかけられたこともないし、立件されたこともないと反論している。

(英語記事 Panama Papers: How China's wealth is sneaked abroad)

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-35984040

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