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2016年4月13日

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アンソニー・ザーチャー北米担当記者

アメリカ合衆国は民主国家かもしれないが、大統領選挙の党候補指名レースをじっくり検討すると、とても民主主義の輝かしい理想を体現しているとは言い難い。

米国史上、ほとんどの党候補は政党の実力者や駆け引き上手な仲介人たちが密室で、取り引きで決めてきた。政党は会員制クラブのようなものだ。独自のルールがあり、よそものには不審の目を向ける。

より開かれた予備選や党員集会の仕組みが、従来のやり方に上乗せされたのはごく最近のことだ。それによって本選候補選びに、一般市民も関われるようになった。

しかし僅差で激しい予備選となると、民主的に公明正大に行われているという表向きのメッキは簡単にはがれる。そして米国の政治システムをいまだに動かす、時にみっともないからくりが露呈されてしまう。

そしてこれに対して特に2人の候補の支持者たちが、異を唱えているのが現状だ。ドナルド・トランプ氏とバーニー・サンダース氏の支持者たちは、それぞれの党の主流派が徒党を組んで両候補の指名獲得を阻止しようとしていると受け止めている。

しかしその懸念は実際にはどうなのか? 指名レースが最後の数カ月を迎えるにあたり、4つの疑問を挙げてみた。

トランプ氏は損させられているのか?

トランプ氏は共和党の候補指名レースで先頭を走るが、最近では、勝ち進んでいるという雰囲気ではなくなってきた。

代議員757人を獲得し、2位のテッド・クルーズ氏の529人に安定の差を着けてはいるものの、水面下の政治プロセスでは駆け引きに負けているようだという情報が積み上がっている。必要な過半数の1237人を獲得できず、候補指名を自動的に得られなかった場合、この水面下の駆け引きが効いてくるかもしれない。

コロラド州の共和党は9日までに、予備選や党員集会での投票ではなく、党の会合で代議員が誰が支持するかを決めた。その結果、クルーズ氏が34人全員の支持を獲得した。予備選や党員集会の投票でトランプ氏が1位になった州でも、クルーズ陣営は実際に全国党大会に送り込まれる代議員はクルーズ支持者がなるよう、熱心に運動を続けている。

たとえばサウスカロライナ州ではトランプ氏が代議員50人を獲得したが、7月の党大会に出席する代議員の多くはクルーズ支持者だ。この人たちは党大会で、最初の数回はトランプ氏に投票しなくてはならないが、もしなかなか決着がつかずに取り引きで決まるようなら、クルーズ支持に回ることもあり得る。

おかげでトランプ氏と支持者たちが、おかしいじゃないかと声を上げている。

トランプ氏は11日、「同じことが国中で起きている。偉大な人たちが政治家に足を引っ張られている。共和党は大変なことになってる!」とツイートした。

トランプ陣営の予備選対応を担当するポール・マナフォート氏は、クルーズ陣営がコロラド州で「ゲシュタポ戦術、焦土作戦」を使ったと非難した。

トランプ氏が11日に主張したように、候補選びの仕組みが「仕組まれ」た「八百長」試合なのだとしても、必ずしもトランプ氏の対抗馬に有利に働くとは言い難い。共和党の代議員配分方法のおかげで(フロリダ州では1位候補が代議員全員を獲得するなど)、トランプ氏は得票率は37%でも、代議員は45%も獲得しているのだ。

もしクルーズ氏が代議員の数と得票数の両方でトランプ氏より劣っているのに、党大会で共和党の候補指名を獲得するようなことになれば、トランプ氏の不満にも理由はあるかもしれない。

しかしあまり声高に文句を言う前に、アインシュタインの発言と(誤って)伝えられる助言を気に留めたほうがいいかもしれない。

「試合のルールを覚えなくては。その上で、誰よりも上手にプレーしなくては」

この言葉をトランプ氏は知っているはずだ。2014年10月にツイートしているので。

なぜサンダース氏は追いついていないのか?

サンダース氏は5州の予備選で連勝している。直近の8州のうち7州だ。もしアメフト・チームならプレーオフ入りしているころだ。プロボクサーなら、タイトル戦に出ているころだ。

しかし実際には、代議員の数でクリントンに迫っているとは言っても、大差をつけられているのに変わりはなく、大差がほんのわずかばかり減っただけだ。ウィスコンシン州で得票率56%(クリントン氏は43%)、ユタ州では同79%(同20%)、ワシントン州で同72%(同27%)と連勝はしているものの、サンダース氏はわずか91人の代議員を増やしたにすぎない。

米紙ニューヨーク・タイムズの計算によると、前国務長官は現時点で1350人の代議員を獲得している。サンダース氏は1086人だ。どちらを支持するか表明していない「特別代議員」(民主党首脳や重鎮)の票を含めると、その差は1774人対1117人に広がる。

民主党の候補指名を党大会ですんなり獲得するには、代議員2383人の支持が必要だ。

サンダース氏は確かにここ1カ月間の連勝でかなりの成果を上げてきた。しかしいずれも、代議員の少ない州でのことだ。たとえばワイオミング州(代議員14人)、アイダホ州(23人)、アラスカ州(16人)など。それがサンダース氏の抱える問題だ。人口の多い南部のテキサス、フロリダ、ジョージア各州で圧勝したクリントン氏に比べると、同じ勝ちでも成果が色あせるのはそのせいだ(この3州だけでクリントン氏はサンダース氏に代議員184人の差をつけている)。

今後のニューヨーク州(代議員291人)、メリーランド(118人)、ペンシルベニア州(210人)の各州でクリントン氏が予想通りの結果を出せば、この3週間でサンダース氏が巻き返した分はほとんど帳消しにしてしまう。

実際の票数に意味はあるのか?

代議員の人数計算や候補選出のルールが複雑すぎて頭が痛くなるとしても、せめて単純に候補たちの獲得票数を比べれば、どれくらい人気があるのかざっくりとした感覚はつかめるはずだ。そうだろう?

そうではないのだ。

最近の開票集計によると、クリントン氏は今年の予備選で今のところ941万2426票を獲得している。サンダース氏は703万4997票だ。サンダース氏は代議員の数が示すよりも国民の人気は高いというのがサンダース陣営の主張だが、クリントン氏と支持者たちは240万票差というこの数字を容赦なく繰り返して反論材料にしている。

しかし、アイオワ州やワシントン州のように党員集会を開く一部の州は、この数字に含まれていない。候補ごとの得票数を公表しないからだ。

米紙ワシントン・ポストのグレン・ケスラー記者は、投票率をもとに全州での得票数を計算してみた。その結果、クリントン氏はサンダース氏に230万票差で勝っていることになった。大差をつけていることには変わりない。

対する共和党は得票数をきっちり公表している。トランプ氏は825万6309票で1位。クルーズ氏は631万9244票で2位。すでに撤退したマーコ・ルビオ氏は348万2129票で3位。オハイオ州知事のジョン・ケーシック知事は297万9379票で4位だ。

最終的にトップ候補の得票数が多ければ、有権者に選ばれた候補としての正当性の根拠にはなるかもしれない。しかし見た目に惑わされてはいけない。

「候補者を選ぶのは有権者だというイメージを、マスコミは作り上げた。そこに齟齬(そご)がある」とノース・ダコタ州の代議員カーリー・ホーグランド氏はテレビ取材にこう答えた。「党大会で政党が候補者を選ぶように、ルールは作られている。今でもそうだ。そういうことになっているのだ」。

共和党全国大会の代議員に袖の下は効く?

共和党の予備選期間は、ドナルド・トランプ氏が指名を確実にするために必要な1237人の代議員を獲得しないまま終わりそうな気配になってきた。もしそうなると共和党大会は、現代の米国政治史では前例を見ないほどの、なんでもありな乱戦状態になるかもしれない。

党大会では代議員たちが各州の予備選結果に基づいて何度か投票するが、このままでは誰も過半数を得ないまま膠着する。そうすると次に代議員たちは、各々自分の良心に従って投票できるようになる。しかしその良心は何で決まるのか? たとえばドナルド・トランプ氏所有のゴルフ・リゾートに無料招待されたら? あるいはクルーズ一家と素敵な夕食を共にしたら? さらには、ケーシック政権で何らかの地位を約束されたら? そうすれば代議員たちの良心はいくらかでも動くのだろうか?

もしかすると! 公職に就いている人の収賄を細かく禁止する腐敗防止の法律はあるが、党大会代議員は一般市民だ。政府規制によって、企業や労組、政府委託業者、外国人からの金銭受け取りは禁止されているが、それ以外となると法律はかなり不透明だ。

候補の選対本部や、候補に寄付している支援者が、代議員の移動費用を負担することはあり得る。単なる移動ではなく実に豪華な旅行に仕立てて提供することはあり得る。では、金の時計は? 何の印もついていない小額紙幣を詰めた袋は? 汚職防止の州法の適用はあり得るが、判例はほとんどない。

しかし候補者の陣営が代議員にこのような形であからさまに働きかけたことが記録に残り、明るみに出たら、ひどい悪評判につながる。各陣営を食い止めるのはもしかすると、それが最大の抑止力になっているからかもしれない。しかし今回の選挙戦では、国民の考え方や態度は本当に予想しにくい。

全国党大会までまだ数カ月あるが、どこの陣営がどういう汚い手を使ったという非難合戦はすでに始まっている。10日にはトランプ氏がツイッターで、サウスカロライナ州の共和党大会でクルーズ陣営が賄賂を提供していると批判。クルーズ氏はこれを強く否定した。

「州の投票で勝っても、代議員はこちらを代表しない。クルーズ陣営が色々なおいしいものを差し出すから。ひどい仕組みだ!」とトランプ氏は書いた。

一方で同日午前のテレビ番組では、トランプ陣営のポール・マナフォート顧問が、自分たちも党大会では代議員たちをためらわずにもてなすつもりだと認めるような発言をしている。

「まあ、法律があって、倫理があって、そしていかに票を得るかというのがある。どういう手口があるかは詳しく話さないが。代議員を獲得するのにベストな方法は、代議員たちにドナルド・トランプを見てもらうことだと思っている。その言い分を聞いてもらうことだ」

別のトランプ陣営顧問、バリー・ベネット氏は「トランプ氏の自家用機に席を用意するとかそういうことではない」、「大事な一線は引かないとならない。道徳や法律にもとる、倫理的でないことは何もしない」と強調した。

しかし、大統領候補になるかどうかがかかっている時、そしてそれを決めるのがわずか一握りの代議員だった時、その「大事な一線」はもしかすると、ひどくぼやけたものになってしまうのかもしれない。

(英語記事 Is the US presidential race 'rigged'?)

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-36033993

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