2024年5月2日(木)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2016年6月29日

 確実に言えることは、「一国二制度」を骨抜きにする習近平指導部の強硬な香港政策が、若者たちの間に「中国離れ」どころか、過激な香港独立派まで台頭させたという現実があるということだ。中国大陸でも言論の自由や市民の権利を求めて立ち上がった人々を力でねじ伏せ、社会から「消す」強硬な手法は、逆に横暴な権力を恐れない大量の勇気ある市民を台頭させ、習体制に重くのしかかっている。

 北京では5月上旬、重点エリート大学・中国人民大学の修士課程を修了した29歳の青年・雷洋が、空港に親戚を迎えに行った際、なぜか「買春」容疑で拘束され、派出所に送られる途中、心臓病で突然死する事件が中国社会を震撼させている。謎だらけの死に対して知識人たちは警察ではない独立した調査を要求しているが、司法手続きがなく警察権力によっていとも簡単に自由を奪われ、命まで消えてしまう現実は、「自分も第二の雷洋になりかねない」という市民の不信感と疑念を強めさせた。

 香港でも同様に、林栄基のように恐怖に恐れずに声を上げる人たちへの共感や支持が市民の間に広がっている。習近平は、強権政治により、自分で自分の首を絞めている。胡錦濤・温家宝時代は黙認された香港の「禁書」まで、耳障りになるほど、習近平は自身の統治能力への自信をなくし、それを潰すことで安定を保とうとしている。

英のEU離脱と中国問題

 習指導部は、英国の欧州連合(EU)離脱選択に何を見たか。「国民投票」があらゆる安定を破壊する西側民主主義の政治の愚かさを強調しているが、英社会の分断は、過激な「中国離脱派」が台頭する香港社会にも当てはまる現実として懸念を深めているだろう。その香港の現実は、当然のことながら香港だけの問題でない。香港の不安定化は、中国共産党体制の安定に直結する問題だ。

 習近平政治の本質は何か。毛沢東をまねた個人崇拝や、「中国の夢」や南シナ海・東シナ海への野心的な進出に代表される「強国路線」、国民の人気を得る側面もある反腐敗闘争…。習近平がポピュリズムやナショナリズムを前面に出した国家運営を進めざるを得ない背景には、深刻な格差や不公平システムがもたらした中国社会の分断が、共産党体制を直撃する不安を覆い隠せなくなっているという現実があるのだ。(敬称略)

  
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