この熱き人々

2016年9月20日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 カフェという言葉がまだ目新しかった時代、奈良市に「くるみの木」をオープン。多くの人々を引きつけてやまないこまやかなもてなしのスタイルは、地域の魅力を発信する新たな拠点でもしっかりと貫かれている。

 奈良といえば、興福寺、東大寺、春日大社、法隆寺……古(いにしえ)につながる歴史的スポットが多く、世界中から観光客がやってくる。観光地ではないけれど日本全国からそこを目指して
人が集まってくる場所もあるという。「くるみの木」「秋篠(あきしの)の森」は、暮らしや空間や食に関心のある女性たちからは「一度行ってみたい」と前のめりの反応が返ってくる。石村由起子は、これらの施設のオーナーであり、経営者、空間コーディネーター、隠れた名品を掘り出す目利き、各地の産品PRのコンサルタントとしても知られている。

 近鉄大和西大寺駅から車で10分ほどの住宅地にある「秋篠の森」は、ギャラリー「月草(つきくさ)」、大和食材を中心に使うレストラン「なず菜」などからなる複合施設。広い駐車場には大阪、神戸、三重、福岡など他府県ナンバーの車が並んでいる。ミシュラン1つ星を獲得した「なず菜」のランチを食べにはるばるやってきた人たちだ。ランチは11時からと13時からの入れ替え2部制なのだが、それでもなかなか予約が取れないという。

 建物を若くかわいい森が囲み、すももや梅などの果樹が実をつけ、窓にはぶどうの木が蔓(つる)を伸ばし房が育っている。客はギャラリーを覗(のぞ)いたり、木漏れ日の差すベンチに腰掛けたりして待ち時間を過ごしていた。

(写真左)さまざまな果実が森を彩る (写真右)果実酒の瓶が並ぶ「なず菜」の店内

 50種類を超える果実酒の瓶が並ぶ店内で迎えてくれた石村は、事業を成功させた経営者の鋭さより、ゆったりまったりした雰囲気をまとっていて、満席の客のひとりとして場に見事に溶け込んでいる。だから誰も、まさかオーナーだと気づかない。

 「事業をしようと思ったわけではなく、1歩ずつ前に進んでいるうちに事業にしなければならなくなったという感じですね。30歳までに子どもを産むつもりで大阪から越してきたはずなのに、なぜかこういうことになってしまって。ある日、突如夢に向かって走り出すことになり、思いもかけなかった人生が始まった。最初の1歩ははずみで踏み出してしまったんです」

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