この熱き人々

2016年8月19日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

 既存のダンスの概念を超えた作品を驚異的なペースで次々と発表。現代ダンスの第一人者として、世界のアートシーンに強烈な印象を刻む。3年前、自らの創作活動の拠点を得て、新たな地平をめざすダンスとの格闘はますます熱く勢いを増すばかりだ。

 新宿駅から電車で10分ほどの荻窪駅。横文字の店名の洒落た店と色褪せたカツ丼のサンプルに年季を感じさせる店が共存する商店街が環状8号線にぶつかる直前に「KARAS APPARATUS(カラス アパラタス)」が小さな口を開けていた。「カラス」は勅使川原三郎(てしがわら・さぶろう)が主宰するダンスカンパニーの名称で、「アパラタス」は「装置」という意味。

 一歩足を踏み入れると、すぐ地下への階段。吸い込まれるようにB1に下りると、ギャラリーとダンススタジオ。さらに階段を下りたB2は70席のこぢんまりした劇場。2013年に誕生した3層のスペースは、アーティスト勅使川原三郎の創作と発信、さまざまな交流や交感のための根拠地であり、新しい表現を常に生み出し続けている空間なのである。

 勅使川原三郎といえば、日本より外国での公演が多い希代のダンサーであり、振付家、演出家としての活躍だけでなく、美術、照明、衣装、音楽構成なども手掛け、光、音、色、装置や身体などすべてを絡み合わせて空間を質的に変えていくことでも知られている。

 「この場所は、僕にとってはすごく重要なんです。何にも制約されずに自由に表現活動が展開できる。公共の施設も民間企業のアートスポットも劇場も、使わせてもらうにはさまざまな制約が出てくる。ちょっと譲歩すれば楽なんでしょうが、それでは器に載せられているわけで器を壊して表出させることはできない。芸術って所詮そういうもんだよって言う人がいるけれど、それってある種の敗北主義ですよね」

 しょうがないと諦めることは、妥協すること。勅使川原は、それを拒否するために、徹頭徹尾自由な精神でいられる場を自ら確保したということだ。しかし、自由の基地を維持するのは容易なことではない。サポーターや設備の支援など、勅使川原の心意気に共鳴する人たちが支えになった。

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