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2016年9月30日

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日本のアニメ映画『君の名は。』が公開1カ月で興行収入100億円を超え、人気作を数多く出してきたスタジオジブリの作品以外としては記録的なヒットになっている。なぜ成功を収めたのか。人気の背景を探った。

1)体が入れ替わるという幻想的な設定

この映画は、10代の男女の体が入れ替わるという話を中心に展開する。

小説を原作とし、日本の田舎町に住む女子高校生、三葉(みつは)と東京の男子高校生、瀧(たき)の出会いを描く。

三葉は自分が若い男の体になってしまったのを夢の中のことだと思い、一方の瀧は田舎の女子生徒として周囲の世界を見る。

映画は体の入れ替わりと、タイムトラベルや破壊と死をもたらす彗星をめぐる2人の経験を描写している。

2)日本の昔話男女取り換えがインスピレーションに

映画を監督した新海誠氏は、12世紀(平安時代)の昔話「とりかへばや物語」からインスピレーションを得たとされる。とりかへばや物語では、対照的な性格の双子の男女が、男の子が女の子として、女の子が男の子としてそれぞれ育てられる。

現代日本の映画やテレビドラマでも、同様のテーマを扱った作品が存在する。

1982年公開の『転校生』は、神社の階段を転げ落ちた10代の男女の体が入れ替わるし、2007年のテレビドラマ「パパとムスメの7日間」では、父と娘の体が入れ替わる。

3)夢見がちな思春期のメランコリー

映画は、大人への成長や思春期、複雑な世界の中で自らのアイデンティティーを確立する苦悩、といった普遍的なテーマを扱っている。

三葉と瀧は、お互いの体が入れ替わった状態で夢から目覚め、現実と夢の境界線が度々あやふやになる。監督の新海氏は、この部分は古今和歌集の有名な小野小町の和歌から影響を受けていると語っている。

思ひつつ寝ればや人の見えつらむ 夢と知りせば覚めざらましを

「彼のことを考えながら眠りに落ちたから彼の夢を見たのだろうか。夢と知っていれば目覚めなかったのに」という意味だ。

新海監督は、夢から目覚めたばかりのぼんやりした物悲しい瞬間の感覚を映画の中で表現しようとしているようだ。

4)日本を変えた東日本大震災の記憶

映画には、2011年3月11日に日本を襲った過去最大の地震、東日本大震災の経験も反映されている。震災では約1万6000人の命が奪われた。

3・11(サンテンイチイチ)と広く呼ばれるこの震災について、新海監督は週刊ダイヤモンドとのインタビューで、彼自身だけでなく日本社会を変える経験だったと話している。

映画でも自然災害の脅威が描かれている。新海監督は、「あすは我が身かもしれない」という、自らも含め多くの人が感じていることが映画の根底にあると語った。

映画の中で登場人物の瀧が、東京で同じようなことがいつ起きてもおかしくない、と語る場面がある。

ブロガーの吉永龍樹さんは映画について、「震災のショックを受け止めてあの規模の作品に消化するのに、およそ5年かかるということなのかもな」とツイッターに投稿した。

5)「聖地巡礼」

『君の名は。』の映像の美しさも話題になっている。実在する場所をモデルにした場面も多い。

あるツイッターユーザーは、ストーリーや演出、音楽なども良かったが、映像の美しさに一番感動した、とコメントした。

ほかのツイッターユーザーたちは、モデルになった場所の写真を投稿している。ファンたちは長野県内の新海監督の地元や岐阜県、さらには都内にある「ロケーション」も訪れている。

映画は海外の関心も集めている。

カナダのアニメファン、イスマエル・ラモスさんはBBCの取材に対し、「映画の細かい描写一つひとつが非常によく考え抜かれていて、それぞれがとても精密かつ情熱的に作られている」と語った。「美術と音楽、物語が完璧なバランスになっている」。

6)日本のアニメ界の主流となる新世代か

映画がこれほどまで成功したのには、若い世代やアニメファンを超えた、幅広い層の支持を得たことがある。

そのため、新海監督は次の宮崎駿だと称賛する声も一部に出ている。「宮崎駿」はアニメの代名詞としてほぼ通用するほどで、日本のアニメ作品のファン層を海外にも広げた立役者として知られる。

宮崎監督がスタジオジブリで制作した作品には、アカデミー賞を受賞した人気作「千と千尋の神隠し」や「もののけ姫」、「ハウルの動く城」が含まれ、これらの作品は全て、興行収入が100億円を超えている。

あるツイッターユーザーは、「新海監督は『君の名は。』で、宮崎監督に近づいた」とコメントした。

少し違う意見を持つ人もいる。

前出のラモスさんは、「宮崎監督と新海監督のスタイルにははっきりした違いがある。両方とも非常に力強いスタイルだが」と語った。

「2人に共通するのは、観客に旅をさせ、経験をさせる能力だ。アーティストであれば誰もが究極的に目指すところだろう」

「模倣は最大の賛辞」という言葉が正しいと考える読者には、『君の名は。』の予告編を短編ホラーに作り替えたファンもすでにいることをお伝えしておこう。

(岡ゆづは/イベット・タン)

(英語記事 Why the story of body-swapping teenagers has gripped Japan

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-37503259

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