日本では、数カ月後や数年後といった未来のために、計画的に今日を生きるという価値観が一般的には良いとされている。しかし、世界を見渡せば、そうではない価値観で生きている人たちもいる。「Living for today」という生き方を実践しているタンザニアの零細商人や、インフォーマルな経済とはどんな状況なのだろうか。『「その日暮らし」の人類学 もう一つの資本主義経済』(光文社新書)を上梓した立命館大学大学院先端総合学術研究科の小川さやか准教授に、「タンザニアでの路上商売」や「中国とアフリカのインフォーマル経済」などについて話を聞いた。
――小川先生のアフリカでの路上商売体験が印象に残りました。
小川:2011年に出版した『都市を生きぬくための狡知』(世界思想社)の話でしょうか。私が大学院生のときに在籍していた京都大学アジア・アフリカ地域研究研究科では、当時、農耕民や狩猟採集民、牧畜民などの生業研究が盛んでした。私は都市で調査をしたかったので、アフリカ都市経済の主たる生業である零細商売について参与観察をしました。タンザニアの都市部では、路上商売や零細製造業、日雇い労働などを渡り歩く人たちが社会経済の主流派で、都市人口の約66%がこうしたインフォーマルセクターの仕事を第一の所得源としています。私は最初の調査の10カ月間のほとんどを古着の行商をし、2回目に渡航した際にも行商をしていたら、調査助手から「いつまで行商をするんだ」と言われてしまいました(笑)。
――チャレンジャーですね。日本人の行商人や露天商は珍しいんじゃないですか?
小川:そうですね。「どこから来たの?」「ここで何をしているの?」「飲みに行こう!」などと声を掛けられることもしょっちゅうでした。
でもそれが売上に繋がるかといえば、お客さんの懐具合によるので、よく売れた日でも1日に30枚くらい、全く売れない日もありました。
――小川先生の調査助手であるブクワさんは建築業やサービス業、零細製造業、商業を、妻のハディジャさんも仕立て屋など様々な業種を渡り歩いていて、まさにタンザニア都市部の主流派といったところです。1日に全く売れなかったり、30枚売れたりという収入で、彼ら家族は食べていけるものなのでしょうか?
小川:食べてはいけます。ただしお金がない時に、助けてくれる関係があればですが。