佐藤忠男の映画人国記

2010年3月8日

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おかっぱ頭にそばかすの国税局査察官を宮本信子が快演。「マルサの女」はジェネオン・ユニバーサル・エンターテイメントから発売中。
価格4935円(税込)。

 俳優にとっては、その人独特の美点を見ぬいて、その良さを巧みに生かしキャラクターを工夫してくれる脚本家や監督との出会いは決定的なまでに重要である。笠智衆と小津安二郎、三船敏郎と黒澤明の結びつきがその代表的な例であるが、「マルサの女」(1987年)や「タンポポ」(1985年)における宮本信子と伊丹十三の場合もまさにそういうものだったと言えよう。知的でシャキッとして愛嬌がある。それにしては地味な存在だった宮本信子の個性を、夫の伊丹十三(1933〜97年)が脚本家兼監督として映画を作るようになると全面的に開花させたのである。洒落たユーモアを表現できる見事なコンビだったと言わねばならない。彼女は生まれは北海道の小樽だが、名古屋で育っている。

 竹下景子も名古屋出身。高校時代からNHK名古屋局の制作のドラマに出演していて、大学進学で上京してからは東京でNHKの番組に出た。感じの良さを大事にするNHK好みの女優と言えるだろう。映画では山田洋次監督の「学校」(1993年)の夜間中学のまじめな先生が良かった。

 名古屋出身の男優では有島一郎(1916〜87年)、天知茂(1931〜85年)、森本レオなどがいる。有島一郎は軽演劇出身でドタバタも演じていたが、のちにインテリの悲哀などもしみじみと演じるといい味の出る名脇役になった。やはり山田洋次の「なつかしい風来坊」(1966年)での、自宅の便所で痔の痛みに耐えている演技のおかしさ、切なさといったらなかった。天知茂は中川信夫の「東海道四谷怪談」(1959年)の民谷伊右衛門が一代の当たり役で、以来、眉にぐっとシワを寄せて虚空を睨むニヒルな男をよく演じた。森本レオは正にその逆で、ムキになることなどはいっさいごめん、というように言葉も動きも表情も全て消極的に消極的にとふるまうところに、独特のふわーっとした軽くて薄い存在感を作り出した。

 一見臆病そうな表情の内側に強い粘りを秘めていて、心のなかの葛藤の重さを演じるのが得意なのが春日井市出身の奥田瑛二だ。前述の天知茂の付き人からはじめて長い下積みに耐えてきた人だ。代表作は「棒の悲しみ」(1994年)か。その後、監督もやるようになって、なかなか良い作品をつぎつぎに発表している。モントリオール映画祭では常連として迎えられて、2006年には「長い散歩」でグランプリなど3冠に輝いた。

 スターの付き人の下積み俳優の屈折した複雑な意地を巧みに喜劇的に演じた「蒲田行進曲」(1982年)が出世作になったのが豊橋市出身の平田満。おなじく豊橋市からは松平健が出ているが、こちらはテレビの「暴れん坊将軍」(1978〜2002年)をはじめ、ぐっと明るい役が多い。

 岡崎市出身には杉浦直樹がいる。気の弱いインテリなどを演じると上手い。TBSのドラマの名作「岸辺のアルバム」(1977年)が代表作であろう。

 焼物の町常滑市の出身の中野良子は文化大革命後の中国で上映されて大ヒットとなった「君よ憤怒の河を渉れ」(1976年)以来、中国では最も知られた日本の女優となって、中国との文化交流に大きな役割を果たしている。(次回は愛知県2)

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