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2016年11月9日

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異例づくめの米大統領選がもうすぐ終わる。そして選挙につきものなのが、地元独特の奇妙な決まり事だ。米国の選挙では100年以上前から続く慣習もあれば、「投票しました」シールや選挙広告のように新しいけれども今では不可欠なものもある。州ごと、あるいは地域ごとの独自の決まりもある。

米大統領選で、地味ながらも奇妙で独自な決まり事を並べてみた。


投票日にはアルコール販売禁止の場所も

投票日のアルコール販売を州全体で禁止する法律はもうないが、いまだに禁止されている市や郡もある。インディアナ州では18の都市・郡が条例によって、11月8日の酒類販売を禁止している。

しかし初代大統領のジョージ・ワシントンなら、それはアメリカらしくない慣習だと批判しただろう。1758年にバージニア植民地議会に立候補したワシントンは、選挙資金50ポンド全額をアルコールに使い、有権者の支持を獲得し投票を促すために、600リットル以上の酒をふるまった。

ワシントンは1797年に大統領を引退し、地元バージニア州マウントバーノンに戻ると、敷地内に大がかりなウィスキー蒸留所を作った。1799年に亡くなるころには、国内でも最大規模の生産量を誇っていた。


神の存在を疑う者は公職に就くべからず

米国では政教分離が原則だが、一部の州では公職に就くには少なくとも神の存在を信じることが条件だと定め、国の決まりを独自に迂回してきた。

テキサス州は公職に就く要件としての信仰審査は禁止しているが、州憲法権利章典第1条では、公職者は「超越的な存在の存在を認め」なくてはならないと規定している。

テネシー州にも同様の州法があり、超越的な存在を否定する者は州の行政府で公職に就くことはできないと定めている。ほかにもサウスカロライナ、ノースカロライナ、ミシシッピー、メリーランド、アーカンソーに同様の州法がある。


投票シール

投票所でシールを配るのが国中に広まったのがいつごろなのか不確かだが、近年の選挙では多くの有権者が「I Voted (投票したよ)」シールをどこかにつけて、投票所を後にする。

自分たちこそ、全米で使われているシールの「元祖」だと主張するのは、フロリダ州の「ナショナル・キャンペーン・サプライ」社だ。「I Voted」シールを最初に全国的に印刷するようになったのは、1986年だったという。

一部の州や郡は、独自のシールをデザインするようになった。ジョージア州では、州を代表する地元名産の桃の形をしたシールが配られる。一方でシカゴ市など一部の自治体は、経費削減を理由にシールを廃止した。

「投票したよ」シールの伝統には、投票率向上につながる心理的効果があるかもしれないと指摘する専門家もいる。最近の調査によると、周りの人に「投票した」と言いたいからというのが、多くの有権者の投票動機だった。


投票ブース内の制限時間

インディアナ州では、予備選の投票ブースに入ったらわずか3分で出なくてはならない。総選挙は地方選ではたった2分だ。しかしインディアナ州選管のアンジェラ・ナスマイヤーさんによると、この法律は実際には徹底されていない。有権者を投票ブースから強制的に追い出せるのは、地元選管や投票所の係員に限られている。

アラバマ州の選挙州法では、投票ブースで4分たって初めて、係員が有権者に手助けが必要か尋ねてもいいことになっている。もし手助けが必要ならば、有権者はさらに5分かけて投票することができる。手助けが不要ならば、残り1分が与えられる。ただし、順番待ちの列がなければ、有権者は好きなだけ時間を使うことができる。


「馬鹿」は投票禁止?

ケンタッキー州憲法は、「馬鹿や狂った者たち」の投票を禁止している。ただし、能力がなく投票ができないかどうかは、裁判官が判断しなくてはならない。

実際に「idiot(馬鹿)」や「insane persons(狂った者たち)」という表現は、オハイオ、ニューメキシコ、ミシシッピー各州の州憲法で頻繁に使われる表現だが、いずれも精神疾患を患う人を意味する。

オハイオ州憲法の第5条は、「いかなる馬鹿や狂った者たちも、有権者としての権利を認められない」と定めている。

一方で、オハイオ州で市民に投票能力がないと判断する権限は、遺言検認裁判所に与えられている。

ミシシッピー州でも同じような表現で「馬鹿」は、投票できないことになっている。ミシシッピー州のリア・ラップ広報担当次官補によると、個人を有権者リストから除外するには、裁判所の判断が必要だ。

しかし連邦法によると、きわめて限定的な状況を除いて、能力がないことを理由に個人の投票を阻止することはできない。米国の精神障碍者団体(NAMI)によると、知的障害のある人たちも、仮に介護者や付添が必要だったとしても、投票が認められる。

また身体障害者も、家族や友人や介護者の助けを受けて投票する権利が認められている。


複数投票

少なくとも7つの州が、期日前投票の変更を認めている。今年の選挙では有権者の実に4割が期日前に投票しただけに、この規則は少なからず注目された。

共和党候補のドナルド・トランプ氏はウィスコンシン州の有権者に、民主党候補ヒラリー・クリントン氏に投票してしまい「買い物の後の後悔みたいに」後悔しているなら、投票し直すよう呼びかけた。

ウィスコンシン州は、投票日当日に投票内容を確定するまでは有権者は3回、票を変更できる。ただし何度やり直しても有効票は1票のみ。同州オシュコシュ氏の担当者はABCニュースに、投票やり直しは非常に時間がかかる手続きだと述べた。

ほかにもミネソタ、ペンシルベニア、ニューヨーク、コネチカット、ミシシッピーの各州が、期日前投票のやり直しを認めている。


政治的な子犬

気候変動問題を扱う政治活動家団体「NextGen Climate」は、若者の投票率を増やそうと、アイオワ、ノースカロライナ、ペンシルベニア、ネバダ、ニューハンプシャーの各州で、投票所に子犬を連れていく予定だ。

経済ニュースサイト「ビジネス・インサイダー」が、係員やボランティアが子犬を連れてきていた投票所の方が有権者登録や実際の投票が高かったらしいと報道したのを受けて、計画を思いついたという。

2000年以降に成人したいわゆる「ミレニアル」世代は、なかなか有権者グループとして把握できないと言われる。そのため「NextGen Climate」はポケモンGOや交流アプリ「Tinder」を使って、ミレニアル世代に投票を呼び掛けてきた。


決闘は禁止

かなり時代遅れの禁止事項にも思えるが、テネシー州では決闘しようと誰かに挑戦した人物は公職に就くことができない。決闘に参加した公職者は懲罰され、職務をはく奪されることもある。


宇宙時代の投票

テキサス州議会は1997年、宇宙飛行士による宇宙からの投票を可能にする州法を可決。当時のブッシュ知事はこれに署名して成立させた。

米航空宇宙局(NASA)によると、宇宙飛行士は各自に固有の暗号で守られたメールによって投票用紙を受け取る。用紙はNASAのジョンソン宇宙センター司令室に送信され、郡書記官事務所にメールで送られ、記録される。

10月30日に地球に帰還したケイト・ルービンス宇宙飛行士は、帰還前に国際宇宙ステーションから投票した。いま宇宙ステーションに滞在中のシェイン・キンブロー宇宙飛行士も、ステーションで投票する予定という。


就任宣誓式の聖書

合衆国憲法は大統領の就任宣誓に聖書が必要だとは定めていないが、ワシントン大統領がフリーメーソンの聖書を使って宣誓したのを機に、伝統となっている。

第6代大統領ジョン・クインシー・アダムズは1825年に、米国法の本に手を置いて宣誓した。1902年に就任したセオドア・ルーズベルトは、何の本も使わなかった。

しかしほとんどの米大統領は、象徴的な意味をもつ聖書を宣誓に使い、就任の記念に特定の聖句を選んでいる。

4期務めたフランクリン・ルースベルトは4回とも、新約聖書の「コリント人への第一の手紙」から「人や天使の言葉を使って語ろうとも、思いやりがなければ、やかましい銅鑼やシンバルの音にしか聞こえない」という句を使って宣誓した。

バラク・オバマ大統領は2期目の宣誓にあたり、奴隷解放宣言の150周年を記念してリンカーン大統領の聖書を使ったほか、公民権運動のワシントン大行進50周年を記念して、マーティン・ルーサー・キング牧師の「移動用」聖書を使った。

(英語記事 US election: 10 US election oddities

提供元:http://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-37870630

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