WEDGE REPORT

2016年11月12日

»著者プロフィール
閉じる

小口日出彦 (こぐち・ひでひこ)

慶應義塾大学卒業後、株式会社コスモ・エイティ、日経BP社ニューヨーク支局特派員、日経E‐BIZ編集長、日経ベンチャー(現日経トップリーダー)編集長などを経て、2007年、株式会社パースペクティブ・メディアを設立。代表取締役となり、現在に至る。情報分析と情報表現のコンサルティングを手掛ける。ほかに株式会社エム・データ取締役など複数企業の役員を兼務。

 米大統領選の帰趨が定まった11月10日(木)の朝、Wedge編集部から「なぜ米国の大手報道機関などによる事前予想がことごとく外れたのか原因を論評できないか」との打診をいただいた。

 答えは「残念ながらわからない」。

 私は、ごく普通の日本の人々よりは少し強い興味を持って米大統領選を眺めていたが、しょせん“眺めていた”に過ぎず、手元には世論調査の手法や推移、事前予想報道を遡る記録もないので判断する材料がない。なにより、日本に居たのでは「リアルな気配」を感じることもできなかった。

 しかしながら、「世論調査に基づく予想がことごとく外れた」のは事実のようだ(ニューヨークタイムズが投票日当日朝にトランプ勝利80%と発表して大騒ぎになったことは除く)。
この事実について、私の想像を述べておく。

ノールカロライナ州でのトランプ氏勝利を速報するCNN(GettyImages)

世論調査回答者が「調査にスレた」のではないか

 世論調査に基づく得票予測が成り立つには、「調査回答者がまともに答えている」という前提がある。「まとも」というのは「正直に」とか「まじめに」、と言葉をかえてもよいが、とにかく「私はA候補とB候補ならAに投票する」という意思をまともに回答してくれるという暗黙の前提である。

 私は、この前提が大きく崩れているのではないか――と疑う。というのは、「世論調査的な聞き取り」に、多くの一般の人々がスレ切ってしまう――という状況の変化が近年非常に加速したと、容易に想像できるからだ。

 買い物に行く、レストランを予約する、旅行に行く、といった当たり前の行動をするたびに「いかがでしたか?」質すアンケートが、電子メールやSNSメッセージで続々と着信する。うっかりしていると著名な場所に入っただけで「XXさんがYYにチェックインしました」というメッセージが本人の意思と関係なくSNS上に発信され、友人知人に「Like(いいね)!」をクリックしてくれと勝手に求める。

 米国はこうしたマーケティング行為上の個人情報の扱いは、日本に比べたらずっとオープン(情報利用に関する許諾=パーミッションの幅が広い)である。消費財の購買者リストなどは堂々と流通しているし、政治分野でも政党支持者のリストがかなり整備され流通している。

 そうした社会的土壌は、地域や教会、学校などのコミュニティ活動(米国っぽい活動)を活性化するのに寄与してきたのだと思う。しかし、かつて集会や電話を通じて呼びかけられた情宣活動が、ネットの時代になって大量かつ高頻度で繰り返されるようになったら「うっとおしい」と疎んじられる傾向がイヤでも強まるだろう。オバマ大統領の初当選の頃には目新しい情宣経路と評価されたツイッターも、いまでは当たり前の(もしかすると使い古された)道具というイメージが主流だろう。

 こうした感覚の変化をもたらしたのは、当然のことながらスマートフォンやタブレットなどのデバイスが広く一般に出回ったことだ。そしてデバイスが浸透していく過程で、人々は「マーケティング」にさらされた。そのさらされ具合は、新聞、ラジオ、テレビといったこれまでのどの情報経路よりも強力で直接的な印象を与えたと思う。

 調査にスレた人々は、「問いかけ」にまともに答えなくなっていく。あまり深く考えることなく無難な答えを選んだり、遊び半分に本心と違うことを答えたり、極端に悪評選択肢ばかりを選んでみたり……あるいは最初から「ジャンク」として回答そのものを拒否したり。

選挙世論調査もそうした行動の中に巻き込まれ、信用できる調査結果から遠ざかっているのではないか――と私は疑う。

関連記事

  • PR
  • 新着記事

    »もっと見る