この熱き人々

2017年2月24日

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吉永みち子 (よしながみちこ)

1950年、埼玉県生まれ。85年、『気がつけば騎手の女房』で大宅壮一ノンフィクション大賞を受賞。著書に『母と娘の40年戦争』(集英社文庫)、『怖いもの知らずの女たち』(山と溪谷社)、『試練は女のダイヤモンド』(ウェッジ)などがある。

築地市場で最高の魚だけを仕入れ、最高の状態で食すための手間をかける。芸術のように、魚で人に驚きや感動をもたらすことができると信じ、鮮魚店「根津松本」の挑戦は終わらない。

 街歩きの観光客の姿が目立つ東京の下町、根津。その真ん中を通る不忍通り沿いは、店先で煎餅を焼く香ばしい醤油の匂いが漂い、たい焼き店の前に常に行列ができ、大きな通りとは思えない風情に満ちている。そんな街並みのビルの1階に、白い壁に白い小振りな暖簾のかかった店がある。ああ、和菓子店かと通り過ぎようとした時に、暖簾の1枚に小さく魚が描かれているのを発見。そこが、〝てっぺん〟の魚だけを仕入れ、超のつく極上品だけを並べると評判の「根津松本」だった。

 

 正午を過ぎた頃。店にはすでに客が次々やってきている。中に入るとドンと大きな冷蔵ショーケース。おっ! と思わず声が出るほど美しく魚たちが並んでいる。真っ赤な色がひと際目をひくのはベニザケの切り身。カマスは30センチ以上はあろうかと思うほど大きくふっくらしている。隣には自家製のカマスの干物もある。ブリ、サワラ、タラ、ノドグロ、シジミ、小ハマグリ、ホタテ……。ヒゲダラは、そのままフライにできるようにパン粉がまぶしてある。

 「根津松本」の主、松本秀樹は、長身を白衣に包み、店の奥で忙しく働いていた。最高の魚を最高の状態で食べてもらうために、とことん手間をかける。決してそのまま並べるようなことはないという。

 「子供が小さいからちょっとだけでいいんだけど、安心でおいしい魚を食べさせたいというお客さんもいます。骨も完全に抜いておく。小骨まで抜くのってけっこう大変なんですよ。でも、子供には骨が刺さることを怖がらないで思う存分魚を味わってもらいたいんです。本当においしいものを小さい時に食べることって大事だと思うし、魚屋のせいで魚嫌いになったら悲しいじゃないですか」

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