2024年5月2日(木)

海野素央の Democracy, Unity And Human Rights

2017年3月31日

バノンと信頼関係の構築は可能か?

 3月中旬ワシントンでジェリー・コノリー下院議員(民主党・バージニア州第11選挙区)を対象にインタビューを行いました。コノリー議員は筆者と同様、ホワイトハウスがバノン氏にハイジャックされていると見ていました。たとえ日米経済対話でペンス氏と同意しても、背後にはバノン氏の存在があります。日本側はバノングループとも信頼関係を構築しないと、大やけどを負う可能性があります。

 ただ日本側にとってバノン氏との関係構築は、ハードルがかなり高いと言わざるを得ません。というのは、同氏は過去に「シリコンバレーで仕事をしているCEO(最高経営責任者)の3分の2ないし4分の3は南アジア系かアジア系である」とアジア系を間接的に非難しているからです。率直に言ってしまえば、バノン氏はIT企業ではアジア系のCEOが多過ぎると言いたいのです。

 2015年5月に発表されたアセンド財団の調査によりますと、シリコンバレーにあるIT企業で働くアジア系の役員は13.9%で白人が80.3%です。明らかにバノン氏にはアジア系に対するステレオタイプ(固定観念)と誤解が存在しています。コノリー議員を対象に実施したインタビューに同席していた同議員の首席補佐官(白人)は、バノン氏が反アジア系でもあることを示唆していました。

 2016年米大統領選挙で研究の一環としてクリントン陣営に入った筆者からみると、トランプ陣営はまるで家族経営のようでした。現在は確かにバノングループの影響力が大きいのですが、長期的には大統領補佐官としてホワイトハウス入りをするトランプ大統領の長女であり、クシュナー氏の妻でもあるイバンカ氏を含めたクシュナーグループが存続していくでしょう。

 というのは、トランプ大統領は親族を重視するからです。その意味では、日本側にとってクシュナー・イバンカ両氏との信頼関係の構築がトランプ政権との生命線になります。

「ブライトバート・ニュース」の役割

 さて、トランプ政権の目玉政策であったオバマ前大統領の医療保険制度改革(通称オバマケア)に対する代替法案は撤回されました。その結果、オバマケアは存続することになりました。オバマ大統領が約1年2カ月かけて、議会と粘り強く交渉して成立させた医療保険制度をトランプ大統領は僅か61日で廃止に追い込み新たな制度を成立させようとしたのです。

 バノン氏が会長を務めていた「ブライトバート・ニュース」は共和党の代替法案を巡って駆け引きが続く中、ポール・ライアン下院議長を繰り返し非難していました。ライアン議長は選挙期間中、トランプ候補(当時)を支持しないし、これからもしないと発言しました。現在はトランプ大統領を支持しています。米議会で代替法案について討論している最中、ブライトバート・ニュースはライアン下院議長がトランプ大統領に対する立場を変えた映像を動画サイトで流したのです。コノリー議員はこの点に注目していました。

 バノン氏の息がかかったブライトバート・ニュースは代替法案を「トランプケア」と呼ばず、「ライアンケア」とレッテルを貼り名指しで批判していたのです。代替法案はライアン下院議長の提案ですから当然ライアンケアなのですが、ブライトバート・ニュースがトランプケアとして称賛しなかった背景には、バノン氏がライアン議長に対して嫌悪感を抱いているからでしょう。


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