韓国の「読み方」

2017年4月4日

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澤田克己 (さわだ・かつみ)

毎日新聞記者、前ソウル支局長

1967年埼玉県生まれ。慶応義塾大法学部卒、91年毎日新聞入社。99~04年ソウル、05~09年ジュネーブに勤務し、11~15年ソウル支局。15年5月から論説委員。著書に『「脱日」する韓国』(06年、ユビキタスタジオ)、『韓国「反日」の真相』(15年、文春新書、アジア・太平洋賞特別賞)、訳書に『天国の国境を越える』(13年、東洋経済新報社)。礒﨑敦仁慶応義塾大准教授との共著『LIVE講義 北朝鮮入門』(10年、東洋経済新報社)を大幅に改訂した『新版 北朝鮮入門』(東洋経済新報社)を17年1月に刊行予定。

 米国のトランプ大統領が就任早々、移民制限など物議をかもす大統領令を連発した時、韓国政府で働く知人は「韓国の大統領を帝王的だと思っていたけれど、米国の方がずっと帝王だ。びっくりした」と話していた。韓国であんな大統領令を出そうと思ったら政府内の調整だけで1本につき半年はかかるはずだ、それなのにトランプ大統領は連発している、というのだ。

 ただし、移民を制限する大統領令を違憲だと複数の州政府が提訴し、連邦裁判所が効力の一時差し止めを認めるといった具合に、米国では大統領の権力を牽制する制度がきちんと作動している。大統領権力に対する牽制が働きづらい韓国との大きな違いだ。

逮捕状が発付され、ソウル中央地検からソウル拘置所に護送される朴槿恵前大統領
(写真:YONHAP NEWS/アフロ)

 韓国の歴代政権で大統領の家族や側近などのスキャンダルが噴出すると、必ず言われるのが帝王的大統領の問題だ。韓国の大統領は「帝王」と呼べるほど権力が集中しているため、公職に就いているかどうかとは関係なく「大統領に近い」人物が権勢を振るえる構造が背景にあると指摘される。大きな利権で口利きを頼むなら、公務員より大統領周辺の方が合理的な選択ということになる。大統領の妻や子供、兄弟などは、その典型だ。

 韓国には、公務員でない人間が不正な口利きをした場合に適用される「あっせん収財」という罪がある。日本では耳慣れない罪名が存在するのは、そうした文化的背景があるからだ。朴槿恵大統領の罷免と逮捕を巡っても、「帝王的大統領」やら「韓国大統領の強大な権力」などという解説が目立ったが、果たして本当だろうか。私には、そうは思えないのである。

憲法裁判事の付けた嘆き節の「補充意見」

 韓国の憲法裁判所では、判決に相当する決定文に個別の判事による少数意見や補充意見が付くことがある。日本の最高裁と同じだと考えればいい。

 朴槿恵大統領の罷免を判事8人の全員一致で決めた際にも、補充意見が付けられた。安昌浩(アン・チャンホ)判事の補充意見は「帝王的大統領」の問題を正面から取り上げるものだった。

 安判事は、1987年の民主化で制定された現行憲法によって大統領選出プロセスには画期的変化があったものの、大統領の「権力行使」という側面では過去の権威主義的方式から大きく外れていないと評価した。だから、韓国で「秘線」と呼ばれる、公的な役職を持たない崔順実(チェ・スンシル)氏のような人物が権勢を振るう余地が生じるのだという問題提起だ。

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