2026年9月28日(月)

厚生労働省

2026年9月28日

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このところ、「働き方改革」という言葉を以前ほど耳にしなくなった。働き方改革に対する疑問の声を聞くこともある。
働き方改革には、もう取り組まなくてもよいのだろうか。この問いに、ワーク・ライフ・バランスやダイバーシティ推進分野の数多くの研究をリードしてきた東京大学名誉教授の佐藤博樹氏は「NO」と言う。むしろ、働き方改革の本来の目的に立ち返るべきだと指摘する。

※本記事は厚⽣労働省「働き⽅・休み⽅改⾰推進に係る広報事業」の⼀環として掲載しています。

 

働き方改革の本来の目的は「多様な人材が活躍できる働き方を実現すること」

-働き方改革関連法が2019年から順次施行され、「時間外労働の上限規制」の導入や「年5日の年次有給休暇の確実な取得」の義務付けなどがされました。その結果として、時間外労働の削減や年次有給休暇の取得はかなり進んだのではないでしょうか。

佐藤
確かに、多くの企業が働き方改革の流れの中で、時間外労働の削減や年次有給休暇の取得促進に取り組みました。その意味では、労働者の働き方は大きく変化したと言えるでしょう。

しかし、働き方改革の真の目的は、残業時間を削減することではなく、その先にある「多様な人材が活躍できる働き方を実現すること」なのです。残業ありのフルタイム勤務ができる人だけを戦力とみなす前提を壊さない限り、人口減少が加速し人材確保がますます難しくなる中で、企業は事業活動を持続することができないでしょう。 

-多様な人材の活躍は全く進んでいないのでしょうか。

 

 

佐藤
全く進んでいないわけではありませんが、多様な働き方のパートや有期雇用社員の増加による部分の貢献が大きく、フルタイム正社員の働き方の多様化が大きく進んだとは言えません。もちろん短時間勤務や勤務地限定の正社員も増えていますが、その貢献度は小さいです。

例えば、女性が育児休業後に短時間勤務からフルタイム勤務に戻ると、当然のように残業を期待されてしまい、家庭内の家事・育児分担の偏りも依然としてある中で、希望するキャリアの実現が難しくなる状況は、未だ解消されていません。

これまでの働き方改革の取組が、「残業削減・休暇取得」という表面的な理解に基づくものだけに留まっていなかったかを振り返り、今一度、働き方改革の本来の趣旨である「多様な人材の活躍が可能な働き方づくり」に認識を改めることが、企業には求められます。   

 

大事なのは、「時間の使い方」や「仕事の仕方」を自律的に考えること

-残業の削減に向けて、残業時間の上限や「ノー残業デー」を設けたりする企業が多くありました。効果もそれなりにあったのではないでしょうか。

佐藤

働き方改革では、残業削減が最重要課題であるかのように思われていますが、中には必要な残業もあるでしょう。必ずしも残業時間をゼロ時間にしなければいけないわけではなく、大事なことは残業を前提とした仕事の進め方を変えることなのです。つまり、仕事が終わらなければ、残業して対応すればよいと考える安易な仕事のマネジメントを解消することです。
残業削減を、単なる「目標値の達成」に留めるのではなく、「社員の時間制約を前提に、仕事の仕方を変えるための仕掛け」として設計することが求められます。 

-「仕事の仕方を変えるための仕掛け」とは、具体的にどのようなことでしょうか。

佐藤 
ポイントは3つあります。
1つめは、「何かあれば、急な残業でもいつでも社員が対応できることが当たり前」というマネジメントの考えを改めることです。
子育てや介護などで時間制約がある社員が困るのは、「予期していなかった残業が突然降ってくる」という状況です。前日・前々日にわかっていれば、調整ができることも少なくありません。

 

2つめは、顧客や社内から突発的な仕事の依頼があった時に、その仕事がどの程度急ぎかを確認し、顧客などとコミュニケーションをとり、納期を調整することです。1週間先が期限だった仕事について、急に「明日の午後一番に出してほしい」と言われるとします。でも、「本当に明日の午後一番に必要なのか」と尋ねてみれば、実際は明後日でも間に合う仕事かもしれません。期限が本当に動かせず、当日予定していた他の仕事も動かせないなら、必要な残業として対応せざるを得ませんが、そのような状況が発生した背景を分析して、次に同じことが起こらないよう対策をすることも重要です。

3つめは、特定の社員にしかできない仕事を減らすこと、つまり「仕事の属人化」の解消です。
「この仕事は自分にしかできない」と誇りを持っている社員がいるかもしれませんが、特定の社員にしかできない仕事があると、その社員が休暇等で不在の時に誰もその仕事をカバーできず、経営上のリスクになります。お互いの仕事をカバーできれば、休暇も取りやすくなり、人材育成にもつながります。

-「働き方改革=残業削減」ではないのですね。

佐藤 

大事なのは、全員一律に残業を禁止するのではなく、限られた時間の中でどう仕事をするのか、どう時間を使うのかを、社員自身に自分で考えさせることです。社員には、法律や社内ルールの枠の中で、時間の使い方や仕事の段取りを自律的に考えるよう促すことが大事になります。   
また、フルタイム勤務でいつでも残業ができる人だけに大事な仕事を任せる発想を変え、「残業ができること自体を評価するわけではない」と明確に社員に示すこともポイントになります。 

働き方改革が進むと、残業時間が減り、残業代も減る一方で、社員が自分の生活に使える時間が増えます。社員一人ひとりが、「自分の生活がより豊かになるなら、それでよい」と心から思えるかどうかも重要になるでしょう。

 

管理職の働き方改革が必要な理由

-「社員の働き方改革のしわ寄せが管理職に行っている」との声も聞かれます。

佐藤
働き方改革の中で最も遅れている領域の一つが、管理職の働き方です。
背景には、部下の残業削減のために仕事を抱え込んでしまうことや、最近の管理職に期待される役割が非常に幅広くなっていることなどがあります。コンプライアンス対応や多様な人材のマネジメントなど、やるべき仕事が増えているのです。

 

管理職の働き方改革が進まない状況は、部下の働き方にも影響します。忙しすぎる上司を見れば、「上司のような働き方はできない」と思ってしまい、管理職になりたいとは考えなくなるでしょう。とりわけ女性の管理職登用にはマイナスの影響が大きいです。社員のキャリア希望が後退することは、企業にとっても損失です。                            
管理職の仕事の棚卸しをして、「管理職が自らすべき仕事」と「部下に任せられる仕事」を整理し、育成も兼ねて部下に任せる、といったことを考えてみてはどうでしょうか。   

 

働き方改革は、選ばれる会社になるための「生存戦略」

-人手不足が深刻になる中、経営者は働き方改革をどのように捉えるべきでしょうか。

佐藤 

働き方改革は、利益と相反するコストではなく、人材確保・定着の前提条件となります。多様な人材が活躍できる多様で柔軟な働き方を提示できない経営者は、今後の人材獲得競争に負けるという認識が必要です。

働き方改革を「残業削減」から「多様な人材が活躍できる職場づくり」へと捉えなおすことが、今後の企業の「生存戦略」になるのです。

 

 

<プロフィール>
佐藤博樹氏
東京大学名誉教授。専門は人的資源管理やダイバーシティ経営など。1981年(昭和56年)、一橋大学大学院社会学研究科博士課程単位取得。内閣府・男女共同参画会議議員、内閣府・ワーク・ライフ・バランス推進官民トップ会議委員、経済産業省・新ダイバーシティ経営企業100選運営委員会委員長、経済産業省・なでしこ銘柄選定基準策定委員会委員長などを歴任。

 

厚生労働省「働き方・休み方改革シンポジウム」

「働き方・休み方改革シンポジウム」(2026年10月28日(水)14:00~16:30、オンライン配信)では、「働き方改革の“これから”を考える~残業削減で終わらせない、経営強化と価値創造の視点から~」をテーマに、企業事例の紹介やパネルディスカッションを行います。ぜひこちらからお申込みください。