☆神話と現代を結ぶ“二大聖域”の起源と謎に迫る「古社寺の謎シリーズ」第9弾!
アマテラスを祀る伊勢神宮と、オオクニヌシを祀る出雲大社は、日本の神社を代表する古社であり、往古より人々の崇敬を集めてきた。
世間の流行に関係なく人々の関心を集めつづけており、いつ何時も参詣者の波が途切れることはない。
そして、神社や神話、古代史に興味をもつ人の関心は、最終的にはこの二社に収斂するといっても過言ではない。
それは、日本の歴史・文化・伝統・精神の真髄がここに凝縮されているからである。事実、両社をめぐる神話やその草創には、日本古代史の深層が示されている。
だが、両社がいつ、どういう経緯で建てられたのかといった基本的なことは、『古事記』や『日本書紀』にいちおう書かれてはいるものの、何しろ古い時代のことなので、確実なことはあまりわかっておらず、諸説が唱えられているのが現状である。
そこで、伊勢神宮や出雲大社の起源や古代史、信仰に関連する重要トピックをそれぞれ7つほど挙げて解説し、二社をめぐる謎を探り、その奥深さや魅力を紹介する。
<本書の目次>
第一章 伊勢神宮、七つの謎
第一の謎 なぜ天照大神が祀られているのか
第二の謎 なぜ内宮と外宮があるのか
第三の謎 伊勢神宮に仕えた斎王とは
第四の謎 伊勢神宮の別宮とは
第五の謎 心御柱の秘儀とは
第六の謎 天照大神は男神なのか
第七の謎 なぜ20年ごとに建て替えられるのか
第二章 出雲大社、七つの謎
第一の謎 なぜ大国主神が祀られているのか
第二の謎 出雲大社はいつ創建されたのか
第三の謎 古代には超高層神殿だったのか
第四の謎 出雲大社を司る出雲国造とは
第五の謎 出雲のもうひとつの大社とは
第六の謎 天皇に奏上された『出雲国造神賀詞』とは
第七の謎 出雲に弥生王国はあったのか
第三章 「伊勢と出雲」をめぐる謎
第一の謎 なぜともに垂仁朝が創建年代なのか
第二の謎 伊勢の土着神は出雲系の神なのか
「はじめに」により抜粋――
いうまでもなく、歴史と伝統は奥深い日本人の精神文化を包蔵している。それを一口にいうのは難しいが、あえていうならば、われわれの祖先が2000年という長い年月をかけて培ってきた大神宮信仰(伊勢信仰)である。
その中心となるのは天照大御神である。この至高至貴の神を日本人全体の総氏神・大祖神と尊称し、あるいは「親さま」と親しみを込めて祈ってきた。
なお、興味深いのは外国人参拝者が急増していることである。「伊勢神宮(外宮・内宮)外国人参拝者数」によれば、令和5年は、8万4703人とあり、翌令和6年は、11万439人とある。これは前年よりも2万5736人の増加であり、伊勢神宮の魅力が国際的にも注目されて来たことを示している。
これに関して付記しておきたいのは、イギリスの歴史家アーノルド・トインビーの、つぎのような感想である。
トインビーは昭和42年(1967)11月29日に伊勢神宮を参拝した。これは2度目の参拝であった。参拝を終えた後、彼は神楽殿の休憩室で「この聖なる地で、私は、あらゆる宗教の根底をなしている統一なるものを感じる」(原文は英文)と墨書した。
そのようなことをあれこれと考えてみると、伊勢神宮での祈りは、家内安全・商売繁盛などといった私的なものよりも、国家安寧・世界平和といった公的な内容がふさわしいように思うのは、私だけではないであろう。
天つ神の主宰者・天照大御神を祀る伊勢神宮、国つ神の主宰者・大国主神を祭る出雲大社は、ともに日本の歴史・文化・精神の真髄を宿す代表的で重要な古社である。そこには豊富で奥深い歴史がある。それだけに謎も多く秘めている。
本書の目的の一つは、伊勢神宮・出雲大社の豊富で奥深い歴史が秘める多くの謎を解くことにある。そして、その謎解きを通して、日本の原像を探ることができれば幸いとも思っている。