ベストセラーで読むアメリカ

2017年10月5日

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  こうした奇抜な考えを持つマーサーが2008年以降、7700万ドル以上を保守派の政治家や団体に寄付してきたというのだから驚く。そして、このマーサーの存在が間接的、直接的にトランプを大統領の地位に押し上げることに貢献した。特に、バノンが展開した反クリントンの情報戦への資金提供には目を見張るものがある。

 Bannon’s plan to stop Hillary Clinton was multifaceted and years in the making. It was built primarily on four organizations, each of which the Mercers funded or had a stake in (they also compensated Bannon directly). The first was Breitbart News, whose staff and audience grew rapidly after the Mercers’ $10 million investment in 2012.

 「ヒラリー・クリントンを止めるためのバノンのプランは多方面にわたり練り上げるのに数年かけていた。基本的に4つの団体をベースにプランがつくられ、4つの団体にはいずれもマーサー家が資金を出すか持ち分を保有していた(バノン個人に直接、資金も提供した)。第一の団体がブライトバート・ニュースで、2012年にマーサー家から1000万ドルの投資を受け入れた後、従業員と読者数が急速に伸びた」

  白人至上主義を唱えるオルトライト(ネット右翼)から支持を集めるブライトバートも、マーサーの資金援助があったからこそネットニュース業界で勢力を広げた。このほか、マーサーは保守の思想を宣伝するための映画製作会社や、世論を誘導し投票に影響を与える手法を開発するデータ分析会社の設立や運営にも資金を投じた。

確固たる信念、思想を持つバノン

  そして、メディア操縦で最も活躍したのが、Government Accountability Instituteという非営利団体(NPO)の調査機関だ。組織名を直訳すると「政府の責任追及研究所」とでもなるだろうか。もっともらしい名前だが、実際には保守派を支持するマーサーが資金を出し、公正な調査という名目のもと裏でバノンが糸を引き、ヒラリーに不利な情報を独自発掘して大手メディアに提供し続けたという。この非営利団体のGAIについて本書は以下のように記す。

  Established in 2012 to study crony capitalism and governmental malfeasance, GAI is staffed with lawyers, data scientists, and forensic investigators and has collaborated with such mainstream news outlets as Newsweek, ABC News, and CBS’s 60 Minutes on stories ranging from insider trading in Congress to credit-card fraud among presidential campaigns. It’s a mining operation for political scoops that, for two years, had trained its investigative firepower on the Clintons.

 「経済人が仲間内で甘い汁をすする現状や、政府による不正を調べるため、GAIは2012年に設立された。弁護士やデータ・サイエンティスト、科学的な手法を駆使する不正調査員を抱え、NewsweekやABCニュース、CBSの60 Minutes といった主流の調査報道メディア・番組と協力して、議会におけるインサイダー取引から大統領選の選挙に絡むクレジット・カード不正にいたるまで、さまざまな疑惑を明らかにしてきた。政界におけるスクープ報道を発掘する取り組みであり、2年にわたりクリントン一族を標的にした調査報道の能力を鍛えていた」

 GAIは多額の資金援助を背景に、プロを集めて大掛かりな不正発見の調査に取り組んだ。しかもヒラリー・クリントンに不利な調査に力を入れ、主流メディアもスクープ報道のネタ元として、GAIを重宝していたわけだ。ネット右翼をあおるニュースサイトであるブライトバートでは偏向したレベルの低い過激な報道をする一方で、権威あるメディアも認める調査報道にも取り込んで、大手メディアさえも巻き込み世論を反クリントンへと誘導した。民主主義を支えるはずのジャーナリズムでさえ、アメリカではカネで買えるということなのだろうか。背筋が寒くなる。

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