■今回の一冊■
Devil's Bargain
筆者 Joshua Green
出版社 Penguin Press
トランプ大統領の最側近だったスティーブ・バノンの正体に迫るノンフィクションだ。その異色の経歴や思想にくわえ、トランプを大統領選で勝利に導いた恐るべきメディア操縦の実態を明らかにする。「日本に落とした原爆から出た放射能は健康増進に役立った」と主張する大富豪から巨額の援助を得て、バノンは世論を反クリントンに誘導する情報戦を展開した。しかも、選挙戦でトランプ陣営に招かれる前からだ。大手の報道機関もバノンが仕組んだ巧妙なプロパガンダにひっかかり、意図せずに反クリントンの風潮づくりに加担してしまった事実には驚かされる。
バノン自身は8月に大統領主席戦略官の座から追われた。トランプ政権の政策に直接関与する立場ではなくなった。しかし、古巣である極右思想的なニュースサイト「ブライトバート」に復帰し、新たなプロパガンダを仕掛ける立場にある。今後のアメリカ社会の動きを見極めるうえでバノンからは眼が離せない。そう思わせる内容の良書だ。
本書はニューヨーク・タイムズ紙の週間ベストセラーリスト(単行本ノンフィクション部門)の8月6日付で初登場し1位につけた。6週連続での登場となった9月10日付ランキングでも7位につけたものの、残念ながらその後はランキング圏外に落ちている。
「バノンがいなければトランプは大統領にはなれなかった」
最側近だったバノンの身辺を調べる本書は図らずも、トランプ大統領の虚飾に満ちた本性をもあぶりだす。例えば、ニューヨーク・マンハッタンにある派手な外観を持つ高層ビルのトランプ・タワーに関する次の記述には笑った。トランプの本質をついていて面白い。
Like its namesake, Trump Tower is given to hyperbole. Its southwestern facade folds, accordion-style, so that the building magically produces dozens more corner offices and apartments than a typical glass slab. Although the top floor is labeled as the sixty-eighth, this is an illusion—a flight of stairs outside Bannon’s fourteenth-floor office leads down one level, directly to the fifth floor. Trump skipped over numbers when labeling the floors, which is how a building that the city records as having only fifty-eight floors was able to sell the more exclusive and expensive (but fictitious) floors fifty-nine through sixty-eight.
「その名を冠する人物と同じようにトランプ・タワーは誇張の塊だ。南西向きのビル正面はアコーディオンのように幾重にも折れ曲がっている。おかげで、普通に外壁を平面にするより何十も多くのオフィスや居住用の部屋を角部屋にできるのだ。最上階を68階と銘打っているのも騙しが入っている。バノンの14階のオフィスを出て階段でひとつだけ下の階に下りるとすぐ5階になる。トランプは階数をつけるときに数字を飛ばしている。だから、市当局の記録では58フロアーしかないビルなのに、より高級で高額の(しかし虚構の)59階から68階の部屋を販売できたのだ」