2024年11月23日(土)

ベストセラーで読むアメリカ

2017年10月5日

 バノンを深く取材した筆者は、最側近との関係性のなかで、トランプの本性を鋭く見抜く。いくつか、次に列記しよう。

 Trump doesn’t believe in nationalism or any other political philosophy—he’s fundamentally a creature of his own ego.

 「トランプはナショナリズムや他の政治的な哲学を持ってはいない。トランプは基本的に自分のエゴの産物にすぎない」

 At heart, Trump is an opportunist driven by a desire for public acclaim, rather than a politician with any fixed principles.

 「本当は、トランプは社会的な注目を浴びたいだけの日和見主義者だ。ぶれない信念を持った政治家ではない」

 Bannon’s fall from his exalted status as Trump’s top adviser wasn’t the result of a policy dispute, but the product of Trump’s annoyance that Bannon’s profile had come to rival his own.

 「バノンがトランプの最側近という絶頂の地位から転落したのは政策を巡る考えの不一致が原因ではない。バノンの存在感がトランプのそれをおびやかすようになったことをトランプが不快に思ったのが要因だ」

バノンの活動を支えた大富豪、
「原爆は人々の健康を増進した」

 本書では、Trump wouldn’t be president if it weren’t for Bannon. (バノンがいなければトランプは大統領にはなれなかった)と指摘する。To understand Trump’s extraordinary rise, you have to go all the way back and begin with Steve Bannon, or else it doesn’t make sense.(トランプの異例の台頭を理解するには、大本に戻りスティーブ・バノンの話から始めないといけない。そうでなければ、理解できないだろう)とも書く。

 では、バノンとはどういう人物なのか。本書ではその来歴も詳しく追う。労働者階級の家に生まれたバノンは大学を出た後、アメリカ海軍に7年間、身を置き将校として働いた。海軍にいたころから経済紙ウォール・ストリート・ジャーナルを愛読し金(ゴールド)や銀など商品(コモディティー)取引で稼いだ。ウォール街で働きたいという思いから、1983年に29歳でハーバード大学のビジネススクールに入る。

 もともと名門大学を出たわけではなく就職活動では苦労した。ところが、世界最強の投資銀行ゴールドマン・サックスが人材採用のため開いたパーティーで、野球の話で幹部と意気投合し、85年にゴールドマンへ入社した。当時のアメリカの産業界では敵対的買収の嵐が吹き荒れていた。巨額のマネーが動くM&A(企業の合併・買収)を担当するバンカーとして活躍する。マネーの力がエスタブリッシュメント(既得権益層)の大企業を翻弄するM&Aの世界での体験が、バノンのその後の反エスタブリッシュメントな思想のルーツとなる。

 1990年には同僚と独立し、ビバリー・ヒルズで自前の投資銀行を設立し、ハリウッド関連のM&Aのアドバイザーや映画の制作などにかかわる。大きなM&Aをいくつか手がけ資産を築いたあと、2005年には香港に移り、オンライン・ゲーム会社の経営に携わった。ここで、インターネットでゲームに熱中する人々の存在を認識し、こうした人々の関心をひきつければ大きな社会運動につなげられる可能性に気づいたという。この経験を糧に、ニュースサイト「ブライトバート」を後に自ら率い、白人至上主義の極右思想「オルトライト」を支持する一大勢力をつくりあげる。これがトランプを大統領の座につかせる原動力となった。

 バノンはメディア業界での経験を生かし、映像プロデューサーとしても活動する。保守的な政治思想を賞賛するためのドキュメンタリー映画の制作に携わった。そして、2012年にニュースサイト「ブライトバート」の経営を引き継いだころから、バノンによる反クリントンの情報戦が本格化する。その活動を支えたのが、アメリカを代表するヘッジファンドのルネッサンス・テクノロジーズの共同CEOを務める大富豪のロバート・マーサーだった。奇抜な発想の持ち主であるがゆえに資金運用の世界で大成功したマーサーについて、本書では次のような逸話を紹介している。

 He was once overheard by a Renaissance colleague insisting that radiation from the atomic bombs dropped on Japan in World War II actually improved the health of people outside the blast zone.

 「ルネッサンスのある同僚はかつて、彼(マーサー)がこう言い張っていたのを聞いたことがある。第二次世界大戦で日本に投下した2つの原子爆弾は、爆破された地域の外では人々の健康を増進したと」


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