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2018年4月26日

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樫山幸夫 (かしやま・ゆきお)

産經新聞前論説委員長

産經新聞前論説委員長。政治部で中曽根首相番、竹下幹事長番、霞クラブ(外務省)詰め、ワシントン特派員、同支局長、外信部次長、編集局次長、正論調査室長兼論説委員などを経て、2015年6月から産経新聞社監査役。2度のワシントン勤務時代は、ホワイトハウス、国務省などを担当、米国の内政、外交など幅広く取材した。

 有楽町、日比谷界隈の映画街にしばしば足を運ぶ。今月初めに観た「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」は秀作だった。対独戦争のさなかに政権を託された英首相チャーチルが、「宥和主義者」からの強い圧力をはねのけて戦争継続を決意、国民を団結に導く過程を、本人の心の葛藤を交えて描いている。

 日本人メーキャップアーティスト、辻一弘さんがアカデミー賞のメイクアップ&ヘアスタイリング賞を受賞した話題性もさることながら、史話に基づいたストーリーのおもしろさ、演出の巧みさに、スクリーンから片時も目が離せなかった。

(jax10289/iStock)

「ミュンヘンの宥和」の教訓

 突然、映画の話を持ち出したのは、この物語の大きなテーマである宥和主義者との論争が、今日においても示唆に富んでいると思えるからだ。

 今日、日本や米国、いや世界の関心を引きつけている大きな問題のひとつは、いうまでもなく北朝鮮の核開発だ。このような脅威は、切迫、現実的という意味では、かつて経験したことがなかった。

 これを打開しようと、4月27日には南北首脳会談、来月以降には初の米朝首脳会談が予定されている。こうした重要な機会に、当事者の米国や韓国、日本はじめ国際社会が、宥和主義の〝陥穽〟に落ち込んでしまう恐れはないのか。すでに「条件」などが取りざたされていること自体、不必要な譲歩がなされるのではないかとの憶測を生む。

 大胆な妥協、譲歩をしても、戦争を避け平和的手段で問題を解決しようというのが宥和主義だ。言葉が穏当な響きを持つから大衆受けしやすい。しかしながら、誰もが平和的な解決を望むとはいえ、警戒しなければならないのは、相手を恐れるあまりの妥協が結果的に膨脹主義者、独裁主義者の跳梁を許してしまうことだ。

 典型的なケースは、映画「チャーチル」の中でも触れられているミュンヘン会談だ。第2次世界大戦前夜の1938年9月、英仏独伊4カ国の首脳が出席したこの会談で、ヒトラーによるチェコスロバキアのスデーテン地方割譲の要求が協議された。

 当時、世界のリーダーだった英国のチェンバレン首相はヒトラーの威嚇に屈し、これを受け入れた。以後領土的要求を捨てると約束したにもかかわらず、ドイツの異常な指導者は、チェコを保護領に置くなど背信行為を続け、1939年9月にポーランドに侵入、第2次世界大戦を引き起こした。

 「ミュンヘンの宥和」と呼ばれるこの妥協は、独裁者、膨脹主義者を勢いづけ、戦争の惨禍をもたらした悪しき例として、しばしば国際政治を論じる時に言及される。あろうことか、この合意は、チャーチルら反宥和主義者たちの猛反発をよそに、当時、英国やフランスの国民からは、熱狂的に歓迎された。

 当時、米ハーバード大学の学生だった故ジョン・F・ケネディ元米大統領は、その卒業論文でこれを取り上げ、分析している。戦争だけは避けたいと願望する国民から、宥和主義が強い支持を受けたため、その政策を掲げるチェンバレンが必要な軍備の増強に手をつけようとせず、結局、ドイツに対抗する力を失ってしまったーと。ちなみにこの卒業論文は後に「英国はなぜ眠ったか」というタイトルで日本でも出版された。

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