2024年4月27日(土)

チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年4月8日

 もちろんわれわれ日本国民としては、中国人からの応援コールを感謝の気持ちをもって素直に受け入れるが、いわば「高いところからの日本支援論」には心を惑わされる必要はないと思う。好意には感謝すべきだが、「大国の懐の深さ」云々はご免被りたい。

海軍病院船派遣申し出の下心 

 震災の中で、中国政府も日本に対してさまざまな支援を行った。その中には人命救助隊の派遣や軽油の無償提供など、人道主義的立場からの有り難い支援もあったが、こういうものに混ぜて、その意図するところはかなり怪しいと思われるような支援の申し出もあった。

 それはすなわち3月15日、中国の梁光烈国防相が自ら表明した、中国海軍の病院船を日本に派遣して救援活動に参加したい、という一件である。

 病院船といえども、このような船は明らかに中国海軍の戦力の一部であり、いわば軍艦に準ずるものである。中国軍がそれを日本に派遣したいと考えた背後には何か隠された意図があるのではないかと、やはり疑いたくなるものである。

 というのも、近年、東シナ海から津軽海峡までの日本近海に頻繁に出没して、日本に大きな脅威を感じさせてきたのは他ならぬこの中国海軍だからである。そして、中国海軍の進めている「第一列島線と第二列島線以内の海を制覇する戦略」こそが、日本の安全保障と国家存立にとって実質上最大の脅威であることは周知の通りだ。

 要するに、日本にとって脅威となっているはずの中国海軍が、一体何のために、艦隊の一部である病院船を日本に派遣したいと思ったのか当然疑問となってくるが、よく考えてみれば、それは別に不思議なことではない。

 つまり、中国海軍は日本にとって最大の脅威だからこそ、また、中国海軍自身もそのことをよく分かっているからこそ、今回の病院船派遣の申し出があったと理解できる。その際の中国海軍による派遣申し出の目的はすなわち、海軍が自ら日本の大震災で救援活動に参加することによって、日本国民の中国軍に対する警戒心を和らげ、日本国民に浸透しつつある「脅威としての中国海軍」のイメージを少しでも払拭することにあるのではないかと思う。

 考えてみよう。もし中国海軍の病院船が実際に被災地域にやってきて救援活動に参加した場合、日本国内でどんなことが起きるだろうか。おそらく日本中のマスコミはそれを大きく取り上げて、日本人が中国軍によって救助されるような映像が全国に流され、ニュース番組のキャスターやゲストたちが口を揃えて中国軍に感謝と敬意を述べることになるであろう。そしてそれが日本国民の中国軍に対する印象にどのような変化をもたらすかが目に見える。

 中国政府と中国軍も当然、このような宣伝効果を十分に理解した上で、まさにこのような効果を狙って病院船の派遣を申し出た、と考えるべきであろう。そして、「脅威としての中国海軍」のイメージを払拭して日本国民の警戒心を和らげることによって、日本周辺の海における中国海軍の活動がより展開しやすくなる。このように、中国軍の海洋制覇戦略が順調に進められるよう環境を整備していくことこそが、中国政府と中国軍の隠された意図であり、戦略的深謀遠慮であろう。

 言ってみれば、狼は羊の皮を被って餌食となる相手を騙しにかかってきたというのが、すなわちこの度の病院船派遣申し出の真相ではないだろうか。


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