WEDGE REPORT

2011年5月2日

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吉井博明 (よしい・ひろあき)

1971年東京工業大学大学院理工学研究科博士課程単位取得満期退学。1972~1980年(財)未来工学研究所研究員/主任研究員。1981‐1998年文教大学情報学部助教授/教授。1999~現在、東京経済大学コミュニケーション学部教授。専攻は情報社会論、災害情報論。

 また、内容にも問題がある。「地域防災計画」というのは、結局アサインメント(宿題)・リストです。言い換えれば役所の各部局が災害時に実施する業務リストになっていて、「○○課は~をします」とか「NTTや海保はこんなふうに自治体をサポートしてくれます」とか、書いてある。つまり、「どうやって」やるのかが、書いていない。計画に基づいたマニュアルを作っている自治体もありますが、人が替わって引き継ぐうちに本来の意味が忘れ去られ、「絵に描いた餅」のようになってしまいます。

 マニュアルとは、普段から(訓練や演習を通じて)使っておかねばならないものです。実際被災したときには、マニュアルを読んでいるヒマはないのです。

 たとえば自衛隊は、一度も実戦を経験していません。しかし、実戦事例を勉強したり、計画やマニュアルをつくり、これに沿った実動訓練や図上シミュレーションといった演習を常に行っています。これが彼らの災害対応を含めた「いざ」というときの行動に結びついているわけです。

 一方自治体は、自分たちが実務的にやりやすいような訓練や演習に変えてしまうことがよくあります。津波の避難訓練は、本来高台に集まらなくてはならないのに、「高台だとお年寄りが大変だから」といって、集まりやすい場所にする。津波避難訓練なのに、集まりやすいという理由でわざわざ海の近くに集まる自治体もあって、びっくりしたこともあります。自治体職員に聞くと「ここなら、みなさんが来やすいから」という。

 東日本大震災で被災した大槌町は、町長以下自治体職員らが津波で流されてしまった。痛ましいことですが、計画上は高台で行うことになっていた災害対策訓練を庁舎前で行っていたところに津波が襲ったのです。間違った訓練を誰かが始めて、それを踏襲してしまった、残念な例でしょう。

シナリオがなければ、ツールは生かせない

 もちろん、自治体は防災をぞんざいにしたいわけではありません。しかし、前述のように予算や人が少ない上、日常的かつ切羽詰まった課題、たとえば介護や福祉が優先され、どうしても防災の優先順位は低くなります。いつ起こるかわからない防災は、OJTを行える分野でもありません。

 そうすると、防災の研修も受けておらず、対応もマニュアル化されていない、しかも訓練・演習もしていない自治体では、担当者の属人的な防災意識に左右されながら、かろうじて継承されていく程度なのです。

 防災を学ぶためのツールはたくさんあります。過去の実例を知り、図上シミュレーションやクロスロード、防災グループワーク等のイメージトレーニングや実技訓練で鍛えることが基本です。

 しかし、こうしたツールを使いこなすには、災害の「シナリオ」が書けなくてはなりません。シナリオを書くためには、担当地域の過去の災害を調査し、この地域でどのような災害が発生する恐れがあるのか、災害が起きたとき、どういう経路で、どのような情報が入ってくるか、避難所運営をどうするか、食料や救急医療品をどう調達するか等々、すべてを知る必要がある。これらを3年スパンで異動する職員が行うのは難しいでしょう。

 予算のないところは、職員自身が講師になって住民に対する教育を行わなくてはならない。予算があればあったで、ハザードマップ制作を業者に丸投げしたり、防災計画をつくるのにシンクタンクへ調査を丸投げしたりする。つまり、防災の専門スタッフとして、地域に根ざした防災計画やマニュアルを作り、実践力を維持することは大変難しいのです。

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