チャイナ・ウォッチャーの視点

2011年5月26日

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有本 香 (ありもと・かおり)

ジャーナリスト

企画会社経営。東京外国語大学卒業後、雑誌編集長を経て独立。近年とくに中国の民族問題の取材に注力している。『中国はチベットからパンダを盗んだ』(講談社)『なぜ、中国は「毒食」を作り続けるのか』(祥伝社)の他、近著に『中国の「日本買収」計画』(WAC BUNKO)がある。

 今週(5月23日~)初め、日本のマスメディアが揃って、中国の温家宝首相の来日と東日本大震災の被災地訪問などばかり伝えるなか、英紙フィナンシャル・タイムズは、まったく趣を異にする中国関連のニュースを伝えていた。

 これを引用する形で、日本メディアが遅れて伝えた、「パキスタン政府が、同国西部グワダルでの軍港建設と中国海軍の駐留を中国政府に要請した」との情報である。

米国との対立を深めるパキスタンとの関係深化

 以前、当コラムでも触れたが、中国はかねてから、長年のライバルである大国インドへの対抗上、その周辺国(パキスタン、ミャンマー、スリランカ)に、実質的な軍事拠点を置いて、インドをぐるりと包囲する、「真珠の首飾り」と称されるプランを遂行してきた(参照:「日印接近で嫉妬する中国が・・・」)。その最右翼が、パキスタンのグワダルである。

 もとは鄙びた漁村だったグワダルが数年前、中国の援助によって「商業港」として開発された際、いずれここが本格的な軍港と化し、人民解放海軍の拠点と化すであろうとの予想は、日本以外の世界の多くのメディアが書いた。これがいよいよ現実になるか、という話である。

 報道によると、先週、中国を訪問したパキスタンのギラニ首相は、中国側に、「軍港の建設と人民解放海軍の駐留を要請した」と、パキスタンのムフタル国防相が明らかにしたという。ただし、建設の具体的時期などは不明とされ、一方の中国側は要請された事実を認めていない。しかし、パキスタンのメディアはさらに踏み込んで、「パキスタン側は潜水艦乗組員の訓練も中国に依頼した」とも報じている。

 日本でのこの件の報道は小さかったが、「中国の軍事的なプレゼンスが強まることにつながりかねない」と、いわゆる「中国脅威論」を裏付ける方向の記事となっていた。

 これ以前、米国によるパキスタン領内でのウサマ・ビン・ラディン殺害の直後には、米国が殺害作戦に使用したステルスヘリの残骸が、パキスタンから中国へ譲渡されるのではないか、それによって、米軍の軍事機密が中国側に盗られるのでは、との記事も日本メディアに載った。これらの報道もあわせると、昨今の日本のマスメディアはどうやら、中国の軍備拡張とアジア一帯での軍事的な動きを、遅まきながら「脅威」とは捉え出したようである。

「中国を警戒せよ」だけでよいのか?

 しかし、この捉え方にはあえて異論をいいたい。ウサマ・ビン・ラディン殺害から、米国とパキスタンの関係が悪化、パキスタンが中国との軍事をも含む関係強化を望んで動いた。それは軍事大国を目指す中国の思惑に合致したものである――

 今回の件を、そう表層的にのみ捉え、「軍事大国化する中国ますます脅威」と結論付けるのは簡単だ。が、過去半世紀以上にわたって国境を接し、幾度か衝突をしてきたパキスタンとインド、さらにその両国と国境を接して紛争の種を抱える中国、そこへアフガニスタンを睨んでの米英露といった大国の思惑が絡み合う、この地域の動静を単純化して捉えることは非常に危険である。

 海に囲まれて棲む日本人には理解しにくいが、そもそも大陸上に国境を引くという行為自体が、紛争の種をまく行為に等しいともいえる。そしてこのパキスタン、インド、中国が国境を接する地域はまさにその見本のような地域ともいえるだろう。

 パキスタンは、英国の植民地だったインドが独立する際に、「イスラム教徒の国」としてインドから分離独立した国である。このことは、多くの日本人が教科書で習って知っている。しかし、その経緯を詳しく知る人は少ない。

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