2024年4月26日(金)

家電口論

2018年8月19日

 白物家電は、多くのモノが10年以上使われます。「十年一昔」というように、すごく変わります。ここ10年でどのくらい変わったのか、ダイキン工業のショールームで特別展示されている比較モデルを例にレポートしてみたいと思います。2009年製:ATN22JSE5-Wと2017年製:S22VTRXS-Wです。冷房定格能力:2.2kW、6畳用のエアコンです。

ダイキン製6畳用エアコン。左)2009年製:ATN22JSE5-W、右)2017年製:S22VTRXS-W

エアコン進化の基本は国が決めた「省エネ」

 エネルギー資源に乏しい日本は、1979年(昭和54年)に「エネルギーの使用の合理化等に関する法律」を定めました。いわゆる「省エネ法」です。オイルショックで、スーパーからトイレットペーパーがなくなるなど、一種のパニックが市中にはびこったわけですから、法律化されるのもやむをえないと思います。

 そして1997年の京都議定書の採択により、1998年に省エネ法が一部改正されます。この時、エネルギー消費が多い家電に「トップランナー基準」方式で、エネルギー効率を上げることが目標とされました。トップランナー基準というのは、基準設定時に最もエネルギー消費効率のよい製品以上のエネルギー消費効率を目標にして、目標年度に、製品区分ごとに加重平均で達成を判断しようとするものです。

 蒸し暑い日本の夏になくてはならない家電、エアコンを開発するに当たり、これが一番の縛りとなります。

省エネをすると腹が出る!?

 エネルギー効率を上げるには、熱交換器(ヒートポンプ)の効率を上げるわけですが、それに加えインバーター制御、圧縮機(コンプレッサー)の効率化、ファンの軽量化、センサー技術の搭載などいろいろな方法があります。ところが、ここ10年で最も用いられたのは、熱交換器とファンの位置関係です。壁面から余り出っぱらないことを意識して作られていたエアコンが、最大効率を求めて熱交換器をファンとの距離を詰め、グルリと周りを取り囲むようにしました。このため、擬人化されたタヌキのお腹のように、グンと前に突き出た形が当たり前となります。

左より、1997年、2005年、現在のモデルの輪切り。中央の黒い円はファン、パイプが多数通っている金属部が、熱交換器

 今、多く見かける「お腹突き出しスタイル」は、エネルギー効率を求めた結果なのです。さて2009年と2017年でどの位の違いがあるのでしょうか? 数値で見てみましょう。冷房時の消費電力は、440Wと425Wで、15Wの差です。電気代に換算すると0.405円。冷房を90日、12時間稼働させたとして、437.4円。大まかに一夏、500玉一枚です(特性は日本工業規格(JIS C 9612)に、電気代は全国家庭電気製品構成取引協議会の27.0円/kWhに基づく)。

 通年エネルギー消費効率では、4.8と6.7ですから、1.4倍あがっています(通年エネルギー消費効率とは、JIS C9612に定められた、一定の条件の元にエアコンを運転した時の消費電力1kW当たりの冷房・暖房の能力を表わしたもの。この値が大きいほど、省エネ性能が高い)。

 そして、室内ユニットのサイズです。外寸(高さ×幅×奥行):283×770×198mmに対し、295×798×370mm。注目は奥行。187%前へ行きだしたわけです。最後は重さです。7kgが15kg。中身もギューギューに詰まっていることが分かります。

忘れてはいけない室外機

 室内機にばかり、眼が行きがちですが、省エネを考える場合、室外機の存在が非常に大きいです。より高効率、より静音がポイントです。効率は室内機のところで書いていますので、サイズ比較をしてみましょう。外寸:550×658×275mmが、599×718×315mm。小さくしたいのですが、高効率を考えるとどうしてもサイズは大きくなります。重さは22kgが33kg。

 この室外機をカバー等で覆うことなど、とんでもありません。熱が籠もろうものならたちまち効率が落ちます。ただ街で時々ありますが、熱い空気を歩行者に向かって出している設置は感心できません。メーカーサイドも考えており、排気の方向を制御するなど、設置に合わせたパーツも整えられるようになりました。また、配管も昔はビニールテープでぐるぐる巻きが主流でしたが、今では配管カバーや壁の中設置も可能です。

体感温度を下げろ

 省エネをうながす、経済産業省 資源エネルギー庁のパンフレットなどにも記載されていますが、エアコンの推奨温度は、夏:28℃、冬:20℃とされています。これは、「建築物における衛生的環境の確保に関する法律施行令」と「労働安全衛生法の事務所衛生基準規則」で定められた範囲の室温が17℃~28℃であることから来ています。冬の暖房方法はエアコン以外もありますが、夏、涼しくするのはエアコン(クーラー)しかありませんから、その最も省エネな温度、28℃が推奨されているわけです。

 まず、この温度に達するまでの自動プログラムが非常に発達しました。室内の状況に合わせ、なるべく早く28℃まで下げ、安定させるプログラムです。そして、エアコンの温度が28℃と決められた場合、それ以上、涼しくする、体感温度を下げるためには別の手段を使わなければなりません。着目したのは「風」。風を当てることにより体感温度を下げるわけです。ただ風を体に直接当てると人によっては、刺激が強すぎる場合があります。

 このため注目されたのが、気流です。温かい空気は上へ、冷たい空気は下へ移動します。気温は、冷たい空気を天井に沿い行き渡らせる技術です。その後、自然対流により、冷えた空気が静かに下に移動するわけです。ここ10年で、風の制御はすごく発達しました。

 体感温度を下げるには、方法があと一つあります。低湿化です。湿度:15%下げると体感温度:1℃と言われています。冷房でも低湿化しますが、冷房はあくまでも空気の温度が主眼です。このため、湿度にも着目した冷房とでは差が出ます。ここ数年、湿度にも着目したエアコンが増えています。また生活スタイルとして「部屋干し」が当たり前になりつつある現在、湿度コントロールは大きなテーマになりつつあります。

 ちなみに冒頭紹介しました2017年製:S22VTRXS-Wは、「うるさら7」がペットネーム。除加湿機能を持つエアコンです。部屋温度を下げるという基本機能は2009年モデルでも十分ですが、ここ10年は温度コントロールを中心に、風、湿度他をコントロール、空調の中心にある家電として進化したと言えます。

フィルターは常にきれいに

 フィルターが汚いと、エアコンの動作音が大きくなるのは、皆さん経験されたことがあると思います。フィルター目詰まりは、モーターに負荷をかけますので当たり前のことです。これに対し、2005年から導入されたのが、自動フィルター掃除機能。今ではかなりの機種に入っています。楽なことは楽です。ただし、この機能、万能ではありません。とくにゴミ捨てなどの対応をユーザーが怠るとひどいことになります。「自動」を過信してはいけません。


新着記事

»もっと見る