名門校、未来への学び

2018年12月14日

»著者プロフィール
閉じる

鈴木隆祐 (すずき・りゅうすけ)

ジャーナリスト

1966年長野県生まれ。法政大学文学部在学中より出版社で雑誌編集を始め、その後フリーに。著書に『名門高校人脈』(光文社新書)、『名門高校 青春グルメ』(辰巳出版)ほか。

[東京都立国立高等学校(東京都・国立市)]

 誰にもある青春の思い出の味。名門校と呼ばれる高校には、生徒に長年愛される名店が必ず近隣にあり、もはや学校文化の一部にもなっている。そんな店の数々のメニューの中から厳選し、味にうるさいWEDGE Infinity読者も納得の一押しをご紹介したい!

 

 全国の小学校から大学まで相当な数、取材で訪れているぼくだが、こんな学校に通ってみたかった!――と本気で思わせてくれるのが国立高校。文化祭における3年生の、プロはだしの演劇のクォリティで全国的に知られる。ぼくの住む多摩地区では、名実ともにトップの公立校だが、郊外の穏やかな環境にあるせいか、接した生徒たちもみんな大らかで、屈託なく接してくれる。だから在校生とも、寄り道グルメ談義が気兼ねなくできるのだ。

 国立には一橋大学、国立音大、桐朋学園とその他にも学校が多く、学園都市を形成しているため、一帯は昔から個性的な飲食店に恵まれている。ただ、国高に敬意を表したいのは、現役生が新入生に周囲の店をブログで紹介などもしていること。寄り道も文化、現役生が通過儀礼のように体験する味の数々が存在する。

 中でもフェス的要素が高いのが、深川つり舟のしおり丼だろう。そもそも一橋大の運動部連中の御用達の店ではあるが、この巨大海鮮丼を文化祭の打ち上げなどで注文し、気焔を上げるのが国高生の習わしだ。事実、上記のブログでも「最強!」と一言。

 

 そのしおり丼の構成はというと、米はぎっしり400gも盛られ、その上にネギトロが敷き詰められ、納豆が玉座を形作る。そこへビロードの絨毯よろしくイクラが延べられ、座布団のようなマグロの厚切りが等間隔で置かれ、中央には花形にあしらったサーモン切り身が鎮座。その雄しべ雌しべの部分にはワサビが王冠のごとく載っている。

 

 この丼を前にすれば、誰もが王者になった気になるはずだ。だから、乾杯メシとでも名づけたいくらい。価格も2000円するが、もう1品取って、3〜4名でシェアする様子を普段から見かける。なぜかといえば、ご飯と味噌汁のお替わりは何杯でも無料だから。

 しおり丼はむろん、量感と美的さのみでは語れない。サーモンといくらは親子なのだから、ただでさえ相性がいいが、そこへ割って入る納豆が意外にも合う。さらにネギトロがねっとりと舌に絡みつき、得も言われぬ旨味が口中で生ずる。

 大人になってよかったなぁ—と思うのが、これを当てにまずビールを一本、ついで日本酒を徳利で一合は楽勝でいただけちゃうこと。そのぶんご飯は軽くよそってもらいましょう。他にも肴をもらうならよけい。そう、つり舟の大将はもともと銀座と深川で和食の修業をしていた、江戸前のなんたるかを熟知した料理人なのだ。

 師匠の依頼で仕事を教えに来ていた店のオーナーが突然亡くなり、店主不在となったために後を引き継いだのが今のお店なのだという。現店名もそもそも、世話になった修業先の名だ。屋号を残してくれないか—となくなったご主人に頼まれ、店名にしたのだという。だから、国立にあっても深川なのだ。

 バブルが弾ける前はよく接待でも使われていたが、以降はそんな需要も減り、何か他の柱を考えていたところ、大学が近くにあるしと、学生をターゲットにした丼物を始めたのだそう。最初はマグロ丼などごく当たり前の丼を数種提供するだけだったが、学生客の要望やまかないをメニュー加えるなどし、いつしかそれも50種類ぐらいに増えた。

関連記事

新着記事

»もっと見る