WEDGE REPORT

2012年4月20日

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渡邊頼純 (わたなべ・よりずみ)

慶應義塾大学総合政策学部教授

上智大学文学部哲学科卒業、同大学院国際関係論専攻博士課程修了、在ジュネーブ国際機関日本政府代表部、GATT事務局、外務省経済局参事官などを経て現職。

4月19日の報道によると、野田佳彦首相の今月29日の訪米前に
TPP参加を正式決定することが困難な見通しとなった。
消費増税や大飯原発の再稼働問題などを抱えることに加え、
TPP参加に慎重論が根強い党内事情に配慮したという。
正式な参加表明は先送りされたが、各国間での対立も表面化している事前協議を見ると、
交渉日程も延びる気配。
日本に参画できる余地は大いに残されており、期待もされている。
「国家資本主義」の色濃い中国が東アジアの経済統合を進める前に、
自由と民主主義を共有するアジア太平洋諸国でTPPを構成するのは重要だ。
日本はTPPに積極的に関与し、米国とともにルール作りを主導すべきだ。

世界が注目する日本のTPP参加

 昨年11月に野田佳彦総理が「TPP(環太平洋パートナーシップ協定)交渉に向けた協議に入る」と表明したことは大きなインパクトを持って世界各地で受け止められている。TPPに向けて日本が前向きに一歩踏み出したことで、EUも日本とのEIA(経済統合協定)により真剣に取り組むようになり、今夏にも開催される日EU首脳会議では交渉開始へ向けた何らかの道筋が示されることになろう。

 GDP(国内総生産)世界第1位の米国と同第3位の日本が主要構成国となるTPPのインパクトはEUにも次第に浸透しつつある。トランス・パシフィックがトランス・アトランティックにも火をつけた格好で、米国とEUとのFTA(自由貿易協定)構想も大西洋の両岸で再浮上している。

 西側だけではない。昨年11月の野田総理の声明以降、中国もかつてはそれほど重視していなかった「ASEAN(東南アジア諸国連合)プラス6」を評価するようになり、「日中韓FTA」についても前向きに転じてきている。その先駆けともいえる「日中韓投資協定」は3月に合意に達している。筆者のところにも中国のシンクタンクからTPPについての講演依頼が来るなど、TPPについて中国での検討が加速していることがうかがえる。

 このように日本のTPP参加へ向けた動きはアジア太平洋をはじめ、世界中の至る所で様々な「化学反応」を引き起こしている。世界は、地震・津波・原発事故という未曽有のトリプル災害に見舞われた日本がどのようなシナリオを持って復活するのかを固唾を呑んで見守っている。特にゴールデン・ウィーク前半にも実現する野田総理の訪米で野田総理がTPPについてどのような発言をするのか、世界のリーダーやビジネス界は大きな関心を持っている。

期待される日本の貢献

 これまで日本は、安全保障は日米同盟、経済はGATT(関税及び貿易に関する一般協定)・WTO(世界貿易機関)体制のもと、自由貿易の恩恵を存分に享受し、繁栄してきた。しかし、世界の自由貿易はドーハ・ラウンドの停滞とFTAの拡散も相まって、正念場を迎えている。

 そうしたなか、経済ブロックの閉鎖性・排他性を乗り越えることができるのがTPPのような地域間FTAである。「社会主義的市場経済」を標榜する中国主導の東アジア統合である「ASEANプラス3」が進む前に、日米を中心とした普遍的価値観を共有するアジア太平洋の諸国とTPPを構成することはきわめて重要と思われる。

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