2024年4月27日(土)

Wedge REPORT

2020年3月28日

 新型コロナウイルスの影響は、あらゆるスポーツや興行に広がる。東京五輪の開催延期はもちろん、直近ではプロ野球のオープン戦や大相撲が無観客で行われ、バスケットボールのBリーグでは無観客での開催中に選手や審判が発熱、結果予定されていた試合は中止となった。一方で、K-1は観客を入れて開催を強行したことに賛否両論が起こっている。

 延期や中止、あるいは無観客での実施によって、開催者側は損害を被る。特に売り上げの面で、観客の入場料、グッズ、売店などの収入が無いことは大きな打撃だ。

(y-studio/gettyimages)

高知競馬で1日売上が過去最高の10.8億円

 しかし、公営競技(ギャンブル)の世界では少し温度感が異なる。3月10日、地方競馬の1つ、高知競馬では、1日の馬券発売額(10億8952万9400円)が高知競馬の1日の売り上げレコードを更新した。無観客で実施されたにも関わらず、だ。

 この日、同競馬場開催のレースの中では最もグレードの高い「黒船賞」が開催されたこともあり注目度は高かった。従来の売上レコードも前年の黒船賞当日だったが、昨年は祝日の開催。担当者は「無観客の上に平日でもあり売り上げ面は心配だったが、このような結果となり大変ありがたい」と胸をなでおろした。

 高知競馬では、2月27日から無観客競馬を開催している。それでも売り上げを更新した理由は、電話・インターネット投票(以下、ネット投票)の割合が高いからだ。現地はもちろん、場外馬券場も営業しておらず、現金での馬券購入はできない。

 高知競馬での馬券発売は、現在ネット投票が9割を占める。高知を訪れずとも、全国から購入できることで、馬券の売り上げ構成はここ数年大きく変化。全体の売り上げは10年で10倍も増加した。高知競馬はかつて存続の危機に瀕した競馬場だが、ナイター競馬の開催などさまざまな取り組みで、ネット投票ユーザーを取り込んだ形だ。「高知競馬の魅力を高めながら、サービス拡充を進めてきた。その結果が結びついている」と担当者は語る。

 高知の黒船賞が行われた翌日、同じく地方競馬の名古屋競馬場で開催された「名古屋大賞典」。このレースでも発売額でレコードが達成された。同競馬場でも2月27日から無観客競馬で開催されており、ネット投票の割合は8割を占める。大きなレースだったことも売り上げ増加の要因だろうが、高知・名古屋ともに、その前後の開催もおおむね前年並みの売り上げをキープしたという。

GⅠ売上げ、現地は「2%」 

 日本中央競馬会(JRA)では、2月29日開催のレース以降、すでに4週にわたって無観客での競馬を開催。そして3月28、29日も無観客での開催が決まり、29日に行われる、最も格の高いGⅠレースの1つ「高松宮記念」も、無観客で実施されることが決定した。ファンファーレが鳴りそれに合わせてファンが手拍子をする――、あの光景は見られない。

 3月22日までは、GⅠレースこそ開催されなかったが、春のGⅠ戦線に向けた重要なトライアルレースがいくつも施行された。しかし、いつもは大きな歓声が沸き起こるゴール前も、その様子は違っていた。むしろこれまで歓声でかき消されていた馬の蹄の音や、騎手がムチを打つ音がよく響いていた。

 無観客競馬に伴い、JRAでも馬券の発売はネット投票のみ。3月15日までの馬券発売額は、前年比82.4%となっている。もちろん約2割の減少は痛手に違いないが、前年における全体の発売額のうち、ネット投票が占める割合が70.3%だったことを考えると健闘している。

 担当者によると、無観客競馬の施行を発表以降、ネット投票の加入申し込みが殺到。3月15日までに約5万人の申し込みがあり、特に無観客初日の申し込みは前年比5倍を記録した。結果、ネット投票の売り上げは前年比116.6%となった。コロナウイルスによる「巣ごもり」を強いられる中、数少ないレジャーの1つとして見られる向きもあろう。

 JRAでは、1974年に電話投票の試験を開始し、その後システムを次々に整備。2002年からは携帯電話からの投票も本格運用を開始し、以降もネット投票のキャンペーン拡大を続けてきた。今週開催予定のGⅠ「高松宮記念」を例にとると、前年の馬券発売額のうち、ネット投票が67%で、レースが行われる中京競馬場での売り上げは1.8%でしかない。

 もちろん「日本ダービー」「有馬記念」といった、ライトファンにもなじみのあるレースであれば、現地での購入も増える。しかし、開催競馬場の入場者数そのものは、平成以降ピーク(H8年度)と比較し、昨年度は44%まで減少。現金で紙の馬券を購入し、握りしめて現地でレースを見る――というスタイルは、売上比率からはもう主流ではない。

 全国に「ウインズ」などの場外馬券場が40以上ある。通常、開催日はこれらのウインズに加え、開催していない競馬場でも馬券を発売する。今回の開催中止によりこういった施設は営業を中止。光熱費や警備員などの人件費は一定程度圧縮される。ただ、JRAの経費のほとんどは賞金や競走馬の輸送、テレビ中継に関する費用などであり、またウインズの設備の賃貸料などもあるため、圧縮される割合は微々たるものだという。


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