2024年4月27日(土)

変わる農業 変わらぬ農政

2012年5月28日

 現在、ドーハ・ラウンドの中断により、各国は自由貿易協定(FTA)・経済連携協定(EPA)といった二国間、環太平洋経済連携協定(TPP)といった地域自由貿易協定、あるいは経済連携協定の締結を急いでいる。2008年のリーマン・ショック以降、世界貿易が縮小・停滞しているため、各国が余剰生産能力を生かす需要を見出すことができないからである。

 これらの自由貿易協定交渉においては、多国間交渉で提示している条件以上のものは出せないので、基本的にセンシティブ品目(例えば米)の例外扱いが絶対条件になっている。しかし、将来、多国間交渉が再開すれば、当然のことながら、防御的姿勢だけでは、全体交渉を後押しすることも期待できない。

霞が関の中で「国際派官僚」はマイノリティグループ

 多国間貿易交渉において主導権を握るためには、上述のように交渉でセンシティブ産品の例外規定を求めるポジションでは難しい。農政改革が必要な所以である。また世界をリードする理論的目標を持っていることも重要である。そのために内外の農政に精通している人材の存在が不可欠となる。

 だが、日本ではこの点、「国際派」と称される人材グループは、歴史的に見て、強い政治的基盤をもたないマイノリティグループと言われている。

 日本の交渉能力を最大化するためには、一つにはまず、農政改革であるが、二つ目には国際派官僚の充実が必須である。

 これは、「両輪」として進めていかねばならない。国際派官僚の育成方法には様々な方法があろうが、最も重要なことは、「国際人脈の構築」だと思う。情報収集能力と交渉能力を強化すること、政策立案への企画力を高めるためである。

 筆者は日頃から国際人脈の豊富な人材が、官民双方で活躍できる土壌を育成する必要があると考えている。グローバリゼーションの急速な進展に伴い、人材充実こそ国際社会において日本が相応の活躍をする前提条件になっているからである。

官僚バッシング、官僚依存から脱却を

 そこでこの対応策として、まず日本政府は国際機関の幹部・専門職ポストとスタッフポストを合わせて、日本の分担金比率に見合う水準まで高める戦略を策定し、実行に移すことが望ましいと思う。国際的視野と経験に裏付けされた人材の数が飛躍的に増加すれば、世界情勢の正確な把握が機動的・効率的に行われ、より開かれた日本社会の構築に大いに貢献するに違いない。

 もちろん、国際派官僚が国益に貢献するためには、首相、関係閣僚を先頭に政治家がその重要性を認識して、彼らを大いに活用し、現在のような過度の官僚バッシング、官僚依存症という悪弊から脱却することが必要であることは言うまでもない。

日本はお金をいっぱい、出すけれど……

 具体的には、国連食糧農業機関(FAO)への出資比率は12.53%(外務省資料では16%となっているが、国連分担率は12.53%)だが、日本人職員比率は2.5%に過ぎず大きなギャップがある。

 FAOは18年にわたる前事務局長の独裁政権下で職員数が肥大化し、抜本的な改革が必要となっている。現任のジョゼ・ダ・シルバ事務局長はブラジル出身、筆者も所属する国際食料・農業貿易政策協議会(IPC)の元専務理事で事務次長に就任したアン・タトワイラー女史は米国出身で共に改革志向が強い。抜本改革による職員数削減とは別に、優秀な日本人の比率を高めるように政府は積極的に交渉する時期だ。


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