約束通り払えない
企業年金問題の意外な犯人


原田 泰 (はらだ・ゆたか)  早稲田大学政治経済学部教授・東京財団上席研究員

1950年東京生まれ。東京大学農学部卒。経済企画庁国民生活調査課長、財務省財務総合政策研究所次長などを経て現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮社)など著書多数。

経済の常識 VS 政策の非常識

なぜ根拠に基づかない政策がまかり通り、本質的な問いが発せられないのか。少子高齢化、経済政策、財政赤字など、日本の戦後モデルに歪が生じているにも関わらず、政治はポピュリズムに陥り、50年、100年先の日本に責任を持てる判断を下していない。根拠・経済原則に基づく合理性という観点から、不合理な政策の問題点を指摘する。

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厚生労働省は退職した元会社員(OB)が受け取る企業年金の減額を認める要件を実質的に緩和する。これまで、OB減額の要件として(1)受給者の3分の2以上の同意、(2)母体企業の経営状況が著しく悪化しているか、企業の掛け金負担が将来困難になる、の2つの要件が必要とされていた。これを変えようというのである。

 省令改正の手続きを進める前段階として8月27日にパブリックコメントの募集を締め切った。

NTTの美談に異議を唱えた厚労省

 過去にOBの減額を申請したNTTに対して、厚労省は、「経営が悪化していない」として却下したことがある。これに対して、NTTは、受給者の9割(14万人中12万人)の同意が得られているとして、厚労省に対し行政訴訟を起こした。しかし、受給者の給付減額が許容されるためには、母体企業の経営の悪化などにより、企業年金を廃止するしかないという状況で、これを避けるために、給付の額を減額することがやむを得ないと認められる場合に限られるとして、企業側が敗訴した。

 これには、当時のNTTグループが、毎年1000億円前後の利益を計上しており、経営が悪化しているとは認められないということもあった。ここから、企業年金の減額を認めてもらうためには、母体企業の経営の悪化により企業年金を廃止せざるを得ない状況でなければならないと認識されるようになった。

 今回、厚労省は、この経営悪化要因を緩和しようとしている。その一つの理由として、企業から約2100億円の年金資金を受託して、その大半を消失したAIJ投資顧問事件が挙げられる。年金の積立金が不足していることが、AIJのような高利回りをうたう怪しげな会社に騙される一因と考えたからだ。

 厚労省は、(2)の母体企業の経営状況が著しく悪化しているか、企業の掛け金負担が将来困難になるかの要件のうち、どちらかを満たせば良いことを明確にするという(日本経済新聞、12年7月19日)。

 ここで議論している企業年金は確定給付型企業年金と言われているものである。確定給付型とは、給付額=退職時賃金×勤続年数×一定の係数というような計算式で退職後一定年限(例えば15年間)支払うというものだ。企業は、当然、必要なお金を積み立てており、それは企業のお金とは別にしておかなければならない。すると、そもそも企業の経営が悪化すれば減額しても良いというのは奇妙な話である。

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「経済の常識 VS 政策の非常識」

著者

原田 泰(はらだ・ゆたか)

早稲田大学政治経済学部教授・東京財団上席研究員

1950年東京生まれ。東京大学農学部卒。経済企画庁国民生活調査課長、財務省財務総合政策研究所次長などを経て現職。『なぜ日本経済はうまくいかないのか』(新潮社)など著書多数。

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