2024年5月10日(金)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年1月22日

 解説記事は、台湾では、元来対中関与による緊張緩和を目指していた野党国民党も台湾独立を標榜する民進党も、今や政策において大きな差は無く、対中関係で唯一の可能な方策は「時間稼ぎ」だという点は同じで、問題は、どのように時間稼ぎをするかだ、と指摘する。この分析は分かりやすく賛成できる。

 今回の総統選挙では、3候補とも現状維持の立場を取り、違いはもっぱらニュアンスにおいてであった。台湾が事実上の主権国家であるのが現状であり、わざわざ独立する必要はないとの認識が台湾人の大勢を占めるようになったのは、蔡英文総統の慎重な政策の成果であり、歴史的成果であったと言えよう。

 なぜ、「台湾に中国の友達が居ない」政治的状況になったのか。まず、解説記事も指摘する通り、中国が「一国二制度」の成功例であるはずの香港で反対派鎮圧に強権を発揮し過ぎた結果、もはや誰も「一国二制度」を台湾にとっての現実的選択肢と思わなくなったことである。

 そのようなマイナスの影響を数倍重要な台湾に与えることが自明だったにもかかわらず、中国政府は2020年の香港国家安全維持法採択から選挙制度改変へと強硬な手段を取った。それは、やはり、当時の香港での反政府運動が、中国政府には「二国」二制度に行きかねないほどの危険性を秘めたものに見えたからだろう。

自らを「中国人」ではなく「台湾人」と認識

 第二の背景としてあげられているのが、若者を中心とした台湾人の自己認識の変化だ。1990年代初頭から、毎年、回答者に自己認識を台湾人か中国人か、それともその両方かにつき質問されているが、台湾政治大学選挙研究センターの2021年の調査結果では、中国人だとの回答が3%を切った(2.8%)。

 より重要なのは、自らを台湾人だと認識する人の割合の増加だ。1992年の最初の調査では17.6%だったが、2021年の調査では、63.2%になっており、別の台湾民意基金会による世論調査では、2020年に83.2%に達している。

 世代交代を含めて考えれば、これは、まさに不可逆的な傾向だ。選挙前のタイミングで気球や衛星に台湾上空を横断させたり輸入規制をちらつかせたりするのは、中国がこれをいまだに十分理解していないことを示している。

 こうして見てくると、台湾で選挙がつつがなく実施されること自体が中国共産党に対する政治的勝利と言えよう。しかし、そうであっても、台湾海峡が地球上で最も危険な地政学的フラッシュポイントの一つであり続けることにいささかも変わりはなく、それどころか危険度は増している。

 最大の課題は、台湾が、如何にして抑止のための準備をするか、中国の冒険主義をどう阻止するかだ。そのためには、米国・日本他の同志国の役割と協力が極めて重要となる。

『Wedge』WEDGE_SPECIAL_OPINION「台湾有事は日本有事 もはや他人事ではいられない」(2021年 11月号)、「台湾統一を目論む中国 「有事」の日に日本は備えよ」(22年11月号)、「台湾有事に備えるために 日本に必須の“新発想”と“多様性”」 (23年11月号)をまとめた特別版『台湾有事は日本有事 日本がいま、すべきこと』を、電子書籍「Wedge Online Premium」として、アマゾンでご購読いただくことができます。
 

 

   
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