2024年12月23日(月)

世界潮流を読む 岡崎研究所論評集

2024年1月22日

 1月13日に行われた台湾の総統選挙では、与党・民進党の頼清徳候補(副総統)が約40%の得票率で、約33.5%だった国民党の侯友宜候補(元新北市長)、約26.5%だった民衆党の柯文哲候補(元台北市長)の2人を下し、次期総統に選出された。台湾の総統が民選となって以来、同じ党出身の総統が3期続くのは史上初のこととなる。

台湾市民から選ばれた頼清徳新総統(左)が、伴走者の蕭美琴新副総統(AP/アフロ)

 12月29日付けウォールストリート・ジャーナル紙の解説記事‘China Confronts a New Political Reality in Taiwan: No Friends’(今や台湾に中国の友達は居ない)は、総統選挙の候補者へのインタビューを踏まえ、台湾の政治状況は決定的かつ不可逆的に変わり、もはや中国との関係緊密化を支持する候補は居ない、と論じている。この記事は選挙前に書かれたものだが、今回の総統選挙の背景や意義を理解するのに役立つ分析を提供しているのでご紹介する。要旨は以下の通り。

 台湾の政治状況は決定的、不可逆的に中国から遠ざかる方向に変化した。変化は野党国民党の選挙キャンペーンからも明らかだ。

 国民党の侯友宜は「中国の対応につき一度も非現実的考えを持ったことは無い」、「重要なのは、われわれの防衛力・経済力で相手が安易に戦争を始めるのを止めることだ」と述べた。

 与党の頼清徳は、台湾人が中国政府の思惑にとらわれていないとの印象を与えようとしている。過去3年、中国軍が多数の戦闘機を毎日のように台湾周辺空域に侵入させてきたが、台湾人は関心を払わなくなっている。頼は「台湾は比較的平穏だ。株式市場は上昇している。誰もが普通の生活をしている」と語る。

 中国が香港の反政府勢力を一掃した後、台湾において、高度な自治と引き換えに中国が台湾の平和的政治支配を進めることへの支持は無い。自らを中国人と見なす台湾人の割合は3%以下に落ちた。国民党の夏立言・副主席は「台湾の若者は自らを中国人と見ておらず、中国的な物への愛情もない」と言っている。

 過去の台湾選挙は中国との最終的統一に向かうかどうかが論争だったが1月の立候補者は全て対中関係の唯一の選択肢は時間稼ぎということに合意しており、議論は時間稼ぎの方法を巡ってのものだ。国民党の侯候補は、民進党は戦争の危機を控え目にしか伝えていないと非難し、「台湾は早急に準備する必要がある」、「敵に対峙し交渉するには、闘う力が必要だ」と言う。しかし、国民党は若者から古臭いと見られている。

 新世代の有権者は第三候補の柯文哲に魅了されている。彼の対中姿勢は二大政党の中間だ。国民党を過度な対中追従と非難するが、侯と同様、台湾人は戦争リスクを過小評価していると言う。

 頼はかつて台湾独立支持を公言しており北京とワシントンの指導者を心配させているが、現状維持を表明している。現状維持ができるか否かは米国と同志国との緊密な経済・軍事関係構築による抑止にかかっている。

 蔡総統と同じく頼も、注意深くだが中国との対話を否定していない。頼は、「同等の尊厳と民主的な手続き」を前提として「世界平和のため台湾は中国に関与する用意がある」と頼は語った。平和には両者のコミットメントが必要だと頼は言う。台湾に加え中国にも責任があるのだ。

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