2023年12月5日(火)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2023年10月5日

»著者プロフィール
閉じる

野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト、大東文化大学教授

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

 台湾初の「国産潜水艦」が9月末に初めて公開され、蔡英文総統自らがお披露目のセレモニーに出席した。

 台湾では7年前から秘密裏に潜水艦建造計画を進めており、2020年から本格建造に着手。「完成」にこぎつけた蔡総統は「ミッション・インポッシブル(不可能な任務)だった」と誇った。

お披露目された台湾初の「国産潜水艦」(AP/アフロ)

 中国の海洋進出、台湾侵攻に対して早期警戒・反撃を可能とする対抗策として注目される潜水艦は「海鯤(カイコン)」と名付けられた。米、英、豪など「国際コンソーシアム」が水面下で協力した台湾の「国産潜水艦」の建造は、中国の強硬姿勢に伴ってグローバル化した台湾海峡問題の縮図とも言えそうだ。

就航式は「疑米論」対策

 潜水艦の運用はまだ先で、さらに建造とテスト、訓練を重ねて、2025年に就航する。28日の儀式も「下水(水面に浮かせること)記念および命名式」であり、正式な就航ではない。この時期にあえて潜水艦を公開したのは当然、100日後に迫った総統選挙を意識してのものだ。緊張する台湾海峡情勢に対して、台湾自身も努力を怠っていない、という事実を、国際社会に向けてアピールする狙いである。

 「台湾海峡の平和と安全」が国際社会で共通の関心事になることは台湾にとってもプラスである。だが一方で、台湾の内外には「米国の対中戦略のコマになっている」と批判する「疑米論(米国への疑問)」が燻っている。中国の認知戦も「台湾は米中新冷戦に巻き込まれてはならない」という点を軸に展開されているようだ。

 そのなかで、台湾オリジナルの潜水艦を造り上げたことは、こうした論調に反撃を加えるものであり、民進党の再選戦略にも大きな意味を持つ。

 蔡英文総統は式典のなかで「この日は永遠に記憶されることになるだろう。過去、潜水艦の自主建造は『不可能な任務』とみられていた。しかし、今、目の前には、われわれが自ら設計し、建造した潜水艦がある。われわれは成し遂げたのだ。国防の為の軍備は、海外からの購入に加え、『自主国防』の徹底が必要である。そうして初めて戦力を継続的に高め、国防力はより強靭性をもつことができる」と語った。


新着記事

»もっと見る