2024年4月18日(木)

21世紀の安全保障論

2023年8月10日

 南西地域、特に沖縄県の先島諸島(宮古島、石垣島、竹富島、与那国島など)では、有事を睨んだ国民保護の体制を強化する兆しがある。昨年12月に改定された国家安全保障戦略では国民保護について、武力攻撃に先立って南西地域の住民を迅速に避難させるべく、官民の輸送手段の確保、空港・港湾等の公共インフラの整備と利用調整、さまざまな種類の避難施設の確保などを行うと明記された。そして、本年6月に策定された「経済財政運営と改革の基本方針 2023」(骨太方針2023)でも、住民の迅速かつ安全な避難を実現すべく国民保護の体制強化が示された。

(SetsukoN/Saklakova/gettyimages)

 こうした方針を踏まえて、今年7月末には松野博一官房長官が初めて先島諸島を訪れ、首長と避難シェルターの整備や空港・港湾の整備などについて協議している。台湾に近接する先島諸島の首長は、有事の際の国民保護に強い危機感を持ち、沖縄県や国に早期の対応を訴えてきた。今般、ようやく国が重い腰を上げ始めた訳だが、この機会に、先島諸島における住民避難のあり方を見つめ直してみたい。

島外避難のみを追求する危うさ

 国家安全保障戦略に明記されているように、現在の先島諸島の国民保護では、武力攻撃に先立って住民を島外に避難させる「島外避難」を追求している。しかし、2022年のロシアによるウクライナ侵攻、1990年のイラクによるクウェート侵攻の例を見るまでもなく、いかに情報収集・分析能力が向上しても武力攻撃を事前に察知することは極めて難しい。

 なぜなら、攻撃を行う側は奇襲の利を追求するため、侵攻時期を徹底的に秘匿するからだ。さらに、国内の情報統制を容易に行える国は、侵攻時期の秘匿も容易となる。中国軍による台湾や日本への攻撃の時期を事前に察知し、それに先立つ住民の島外避難が常に可能と考えるのは楽観的であり、非現実的とも言えるだろう。

 一方、武力攻撃開始後の島外避難では、輸送中に攻撃を受けて多くの犠牲を生む可能性がある。これは、1944年に沖縄から疎開する学童らを乗せて九州に向かう途中に撃沈された「対馬丸」の悲劇が如実に物語っている。

 このように、国民保護で島外避難のみを追求することの危うさは明らかであり、状況に応じて島外避難と島内避難の双方に対応できる体制を構築すべきだ。

島外と島内の避難で対応できる体制とは

 実は、島外避難と言っても全住民が一挙に島外に避難できる訳ではない。先島諸島の自治体の国民保護計画では、武力攻撃が迫り、または現に武力攻撃が発生した場合、住民は自治体からの指示・誘導に従って島内の避難施設に移動し、その後、所定の空港や港湾に移動して航空機や船舶で島外に避難する。

 つまり、住民は島を離れるまでの期間は「島内避難」の状態にあり、この島内避難の期間を安全に、かつ尊厳を維持して過ごすためには、地下シェルターの整備、食糧・水・医薬品・生活必需品などの備蓄、医療・介護・教育・通信・情報提供・治安維持などの住民サービスの維持が必要になる。こうした体制を構築できれば、島外避難が困難になって島内避難を余儀なくされた場合にも当面の対応が可能となる。


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