2022年10月7日(金)

21世紀の安全保障論

2022年8月24日

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勝股秀通 (かつまた・ひでみち)

日本大学危機管理学部教授

1983年に読売新聞社入社。93年から防衛問題担当。民間人として初めて防衛大学校総合安全保障研究科(修士課程)修了。解説部長、編集委員などを経て、2016年4月から現職。

 「我々は国に見放された」――。これは1996年3月、台湾初の総統選挙を巡って、中台間で軍事的緊張が高まった第3次台湾海峡危機に際し、当時、日本最西端の沖縄・与那国島の町長であった尾辻吉兼氏(故人)が、筆者のインタビュー取材に対し、真っ先に発した言葉だった。空には中国軍機が飛び回り、目と鼻の先の海にはミサイルが撃ち込まれた。「国境の守りは、国の守りそのものではないのか」との思いから、尾辻氏は町議時代、何度も政府に島への自衛隊誘致を陳情してきたからだ。

緊迫した台湾情勢が続く中、日本は自国を守ることができるのか(ロイター/アフロ)

 それから20年後の2016年、与那国島に初の自衛隊部隊である陸上自衛隊沿岸監視隊(隊員160人)が配備された。そして今回、ナンシー・ペロシ米下院議長の台湾訪問で緊迫化した台湾情勢に即応するように、自衛隊は護衛艦や哨戒機などを出動させ、米軍と連携しながら周辺海空域の警戒監視にあたった。

 20年前と比べ、国境の守りに対する政府の意識が変わったのは確かだ。だが現状で、本当に国民を守ることができるのだろうか。そして、私たちは「国から見捨てられていない」と言えるのだろうか――。ペロシ訪台に反発する中国の激しい軍事演習、ロシアによるウクライナ侵略から、それらの疑問を検証することが本稿の目的である。

「衝撃と畏怖」ではじまる現代戦

 8月4日に始まった中国の軍事演習。台湾を包囲するように6カ所の演習海空域が設定され、中国軍は福建省などの基地から、DF-16などの弾道ミサイルを次々と発射させ、多連装ロケットランチャーからは、台湾本島を直撃できる射程500キロメートルのロケット弾を続けざまに撃ち出す映像がテレビで公開された。

 防衛省によると、発射を確認した弾道ミサイルは9発(台湾は11発と公表)で、台北市上空などを飛翔しながら台湾東部の海域に着弾、このうちの5発が沖縄・波照間島や与那国島近くに広がる日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。弾道ミサイルやロケット弾の発射に続き、5日以降は連日、中国空軍の戦闘機や爆撃機など30機以上が、台湾の基地や空港など重要施設への攻撃を想定したとみられる訓練を実施した。

 これら演習で見せた攻撃の流れを、ロシアのウクライナ侵略と重ね合わせてみる。

 侵略初日の2月24日、ロシア軍は首都キーウ(旧キエフ)を含む複数の都市に対し、ミサイル攻撃を敢行、標的としたのは、ウクライナの軍事施設のほか、集合住宅や病院、学校などだ。国連によると、侵略から1カ月、原子力発電所への砲撃を含めロシア軍の非人道的かつ無差別攻撃は激しさを増し、医療施設だけでも43カ所が攻撃され、子ども90人を含む1035人の民間人が死亡したという。しかし、これは確認できた数字であり、実際の犠牲者数は、3~5倍に達すると指摘している。

 実は、米英軍が2003年に行ったイラク戦争でも、開戦初頭の段階で、米英軍はフセイン大統領(当時)やその親族を含むイラク指導者層の所在地と、イラク軍の指揮・通信機能だけを標的にミサイル攻撃と空爆を集中、わずか3週間でイラク政権を崩壊させている。

 敵の弱点を集中的に攻撃し、相手の度肝を抜く――。これは20世紀前半の英国人戦略家リデル・ハートが、敵の戦力そのものをせん滅するのではなく、心理的な衝撃、つまりショックを与えることを目的とした「間接アプローチ戦略」を唱えたのに通じる手法だ。まさに、ミサイルなどの精密誘導兵器を中心とする現代戦は、中国の軍事演習やウクライナ侵略からわかるように、狙った標的に対する「衝撃と畏怖」そのものだ。

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