2024年12月10日(火)

21世紀の安全保障論

2022年8月24日

陸上イージスの再検討も俎上に

 ミサイル防衛の白紙的再検討――。その延長線上で長射程ミサイルの保有など、かつて敵基地攻撃能力と呼ばれた〝反撃能力〟についての検討が進んでいる。

 だが、イージス・アショア導入を決めた大きな理由は、海自の負担軽減だったはずだ。少子化で自衛官への新規応募は減り続け、そのうえ海自の水上艦勤務は不人気職種の代表格だ。新たに建造する2隻の艦の運用をどうやりくりするつもりなのだろうか。

 最近の北朝鮮のミサイル実験でも明らかなように、ミサイル技術は高度化し、旧来のBMDシステムだけで守れないのは事実だ。日本が衛星や電磁波など使って迎撃能力を高め、同時に反撃能力を向上させておくことは必須である。

 だが、台湾有事を考えれば、中国が保有し、日本を射程内とする1600発に上る短・中距離弾道ミサイルの脅威への備えは別だ。まさしく、今そこにある危機だからだ。

 政府が白紙的に再検討してきたのであれば、その内容を国民に説明するのは当然だが、中国と北朝鮮、ロシアというミサイル強国と対峙し続ける日本が、安定して運用可能なミサイル防衛として、陸上イージスの再検討も選択肢の俎上に載せるべきではないだろうか。

サイバー攻撃できない足かせ

 ロシアは2月、サイバー攻撃でウクライナの変電所に被害を与えた後で軍事侵略に着手し、中国の8月の軍事演習でも、演習開始前に台湾総督府や国防部、各地のコンビニなどへのサイバー攻撃が仕掛けられていた。「次の戦争はサイバー空間から始まる」との指摘は、もはや常識であり、武力攻撃前の平時の対応こそ重要なはずだが、日本にはさまざまな足かせがあって、ほぼ何もできないのが現状だ。

 最大の足かせは「専守防衛」という呪縛だ。敵国からのサイバー攻撃を「武力攻撃」と認定できるまで、自衛隊はサイバー攻撃ができない。しかも、政府が反撃可能な事例としているのは、①原子力発電所の炉心溶融(メルトダウン)、②航空機の墜落、③人口密集地の上流にあるダム放水――の3事例だ。これではミサイルや空爆などによる被害と同じような物理的損害を受けるまで手も足も出せないということだ。

 その上、憲法21条「通信の秘密の保護」により、自衛隊であっても、攻撃元のサーバーに侵入しようとすれば、「不正アクセス禁止法」に抵触する可能性があり、ウイルスを作成すれば刑法の「不正指令電磁的記録罪」(ウイルス作成罪)に問われる恐れがある。

 18年末に閣議決定された「防衛計画の大綱」で、自衛隊が敵からのサイバー攻撃を「妨げる能力」を持つことが明記され、サイバー防衛隊は22年3月、540人規模に拡充された。サイバー攻撃専門部隊が約3万人という中国や北朝鮮の約6800人と比較されるが、これだけの足かせがあっては、単に人を増やせばいいという問題ではない。

 米国では、サイバー軍が軍事システムだけでなく、国家の重要インフラのシステム防護を担っており、日常的に他国のシステムを監視し、米国へのサイバー攻撃を探知した途端に反撃できる体制を取っている。それでもサイバー攻撃を防ぎきることは難しいという。

 これに倣えば、日本は急ぎ、「専守防衛」では対処できない現実を認め、サイバー攻撃への備えを根本から見直す必要がある。最も重要なことは、相手のサーバーに入り込んで発信源を突き止めることであり、平時から自衛隊に国家の重要インフラ防護に関わらせることを含め、国会は立法府としての責任を果たさなければならない。


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