避難場所整備のため「被害見積り」を公表せよ
ロシアのウクライナ侵略以降、ミサイル攻撃に備えて避難できる場所として、地下鉄の駅舎などを指定する自治体が相次いでいる。6月1日現在、大阪市や仙台市、東京都など409の地下鉄駅が指定され、地下街などを含めれば全国で436カ所に上っている。昨年末に比べ、数字の上では3倍以上と急増しているが、安全性は「?」だ。
なぜなら、ウクライナの首都キーウの地下鉄では、市民1万5000人が1カ月以上も避難生活を続けていることが報じられたが、それは第2次世界大戦後、駅の通路やホームなどを100メートルの深さに設けるなど、「核シェルター」として整備してきたからだ。それに比べ、国内で最も深い駅は都営大江戸線「六本木駅」の42メートルで、各自治体が指定している地下鉄駅の多くは深さ20~30メートルほどしかない。
そもそも国民保護法に基づき、全国の自治体が指定する避難施設は約10万カ所に上るが、そのうち地下施設は増えたといっても2000カ所にも満たない。しかも、台湾有事が勃発すれば、戦域内となる沖縄・南西諸島の島々には地下施設はほぼゼロだ。
政府は25年度末までに、鉄筋コンクリートの構造物などで造られた強固な緊急避難施設を増やす方針だが、その前に防衛省は、弾道ミサイル攻撃による被害見積りを公表すべきだろう。弾頭に核兵器が積まれていた場合と通常兵器の場合とでは、被害に極端な違いはあるが、ミサイル攻撃による被害見積りが公表されなければ、必要な避難施設の数や構造について議論することも、効果的な住民避難の訓練すらできないと思うからだ。
ウクライナ侵略でロシアは核の使用を示唆し、中国が保有する弾道ミサイルの多くは核兵器の搭載が可能だ。こうした現実を前に、遠方に避難することができない島国の日本において、政府が国民を守るために、避難場所を地下に確保することは必須なはずだ。
迷走するミサイル防衛と足かせだらけのサイバー攻撃、そしてシェルターなき国民保護。列挙した通り、いずれも問題は山積している。政治の不作為で現状が放置される限り、国民はすでに見捨てられているといったら言い過ぎだろうか。
安全保障と言えば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。日本人が長年抱いてきた「安全保障観」を、今、見つめ直してみよう。
特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。