21世紀の安全保障論

2022年5月7日

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吉富望 (よしとみ・のぞむ)

日本大学危機管理学部 教授

1959年生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。陸上幕僚監部、防衛省情報本部、内閣官房内閣情報調査室、防衛大学校教授などを経て2015年退官。拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了、博士後期課程(安全保障専攻)単位取得退学。主著に『防災をめぐる国際協力のあり方』(共著・ミネルヴァ書房)。

 戦争は火種無しには起こらない。その火種の典型が土地の帰属をめぐる争いだ。ウクライナ戦争の火種は、ウクライナ国内のクリミアなどの帰属をめぐるロシアとの確執である。一方、沖縄とその周辺には尖閣諸島と台湾という戦争の火種がある。特に台湾については、中国が武力統一の可能性を公言し、軍事的威圧を強めている。

日本最西端の地、沖縄県・与那国島は、台湾を見ることもできるくらい地理的に近接している(ロイター/アフロ)

 中国軍が台湾に進攻すれば、沖縄は台湾を支援する米軍、ならびに米軍を支援する自衛隊の活動拠点となる。このため中国軍は台湾侵攻と同時に沖縄を攻撃するだろう。この際、沖縄の住民も確実に攻撃される。

 侵略者は、相手国の住民に恐怖を与え、抵抗心を奪い、政府や軍から離反させるために意図的に住民を攻撃する。これが戦争の現実であり、ウクライナでも多く見られている。

 ウクライナでは政府、軍、自治体などが住民を守っている。沖縄でも政府、自衛隊、沖縄県内の自治体などが住民を守らねばならない。

 武力攻撃事態等において住民を守るため2004年に制定された国民保護法で示された国民の保護のための措置は、➀住民の避難、②避難住民等の救援、③武力攻撃による被害への対処、④国民生活の安定、⑤武力攻撃による被害の復旧である。台湾情勢が緊迫する今、沖縄ではこれらの措置を講じる備えは十分だろうか。本稿では、国民の保護のための措置の内、住民の避難および避難住民等の救援に焦点を当て、沖縄で住民を守る上での課題と対応策を考察する。

ウクライナよりも遥かに厳しい沖縄の状況

 ウクライナと沖縄の地形を比較すると、ウクライナはひとつの陸地で隣国と陸続きである一方、沖縄は島嶼県であり、住民は21年3月時点で37の島に分かれて住んでいる。この地形的な差異は住民を守る上で大きな影響を及ぼす。

 ウクライナでは、戦時下であっても車を使って比較的軽易に隣国などへの避難が可能である。一方、沖縄では島嶼の外に避難するためには航空機や船舶が不可欠であり、戦時下では輸送手段の確保が難しくなる。また、避難住民の救援には水、食糧、燃料、医療品など大量の物資が必要となる。ウクライナでは戦時下でも隣国のポーランドを経由して物資の補給が可能であるが、沖縄では、戦時下に島外から物資を補給することは難しい。

 加えて沖縄では、中国軍の台湾進攻に際して台湾からの避難民流入が予測される。中国共産党による弾圧を恐れる人々の数を台湾の全人口(約2340万人)の5%としても、約117万人が外国、特に隣接する日本とフィリピンを目指すことになる。

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