2022年7月7日(木)

21世紀の安全保障論

2022年5月7日

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吉富望 (よしとみ・のぞむ)

日本大学危機管理学部 教授

1959年生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。陸上幕僚監部、防衛省情報本部、内閣官房内閣情報調査室、防衛大学校教授などを経て2015年退官。拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了、博士後期課程(安全保障専攻)単位取得退学。主著に『防災をめぐる国際協力のあり方』(共著・ミネルヴァ書房)。

 この際、台湾からの島外避難の手段は主として漁船などの小型船だと想定すれば、台湾に近い先島諸島に約50万人の避難民が殺到する。こうした多数の避難民が無秩序に流入すると治安の悪化を招くため、沖縄の住民を守るためには統制された受け入れと管理が必要になる。つまり沖縄では、住民の避難対応と同時並行で、台湾からの避難民への対応が必要となるのだ。

避難場所、物資の備蓄と喫緊の課題は山積

 中国軍は、台湾侵攻に先立って部隊の集結や大規模な演習を行い、台湾政府に降伏を迫るであろう。そして、台湾政府が威嚇に屈しない場合に奇襲的な侵攻に踏み切るであろう。こうした中国軍の動きは、ウクライナ侵攻時のロシア軍の動きと似ている。つまり、中国軍が本当に侵攻するのか、いつ侵攻するのかとの判断は極めて難しい。

 このため、国や自治体が住民への避難指示を発出できないおそれがあり、中国軍による台湾侵攻と沖縄攻撃が始まった時には、大多数の住民は沖縄に留まった状態と考えるべきだ。なお、開戦後には沖縄県内の空港や主要港湾は攻撃を受けて定期航路は停止し、自衛隊の航空機や艦艇も防衛作戦に従事するため、住民の避難支援までは十分に手が回らない。したがって沖縄の住民は、各島嶼内の避難場所に避難せざるをえない。

 ウクライナでは、多くの住民が地下施設に避難してロシア軍のミサイル攻撃や砲爆撃から身を守った。中国軍による沖縄攻撃でもミサイル攻撃や爆撃が予想されるため、沖縄でも地下施設を整備する必要がある。

 21年4月1日時点で国民保護法に基づいて沖縄県知事が指定している緊急一時避難施設(ミサイル等による被害を軽減できるコンクリート建造物で一時的な避難に活用できる施設)は938カ所であり、地下施設は沖縄本島内の6カ所のみである。このため、全ての有人島に地下の避難施設を整備していくことが喫緊の課題だ。

 また、避難住民の救援に関しては、島外からの物資補給が難しいため、各島嶼で必要となる水、食糧、燃料、医療品などの物資の備蓄が必要となる。現在でも、沖縄県では災害に備えた3日~1週間分の備蓄を奨励しているが、ウクライナでは2カ月以上も戦闘が続いている。島外からの補給を断たれた状態で住民が長期間の避難生活を生き延びるためには、備蓄の大幅な拡充は不可欠である。

 なお、住民の避難および避難住民の救援に際しては、避難誘導、避難施設の運営、物資の管理・運搬、医療、ライフライン維持、治安維持などに多くの要員を必要とする。しかし、現時点で沖縄に所在する自治体、指定公共団体、警察、消防などの要員では不足することは明らかだ。ウクライナでは、多くの住民有志が住民への支援に従事している。こうした住民組織を作って住民の避難および避難住民の救援に従事してもらうことも喫緊の課題となる。この際、既に存在する消防団を拡充することも一つの方法であろう。

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