2022年7月2日(土)

21世紀の安全保障論

2022年5月7日

»著者プロフィール
著者
閉じる

吉富望 (よしとみ・のぞむ)

日本大学危機管理学部 教授

1959年生まれ。防衛大学校卒業後、陸上自衛隊に入隊。陸上幕僚監部、防衛省情報本部、内閣官房内閣情報調査室、防衛大学校教授などを経て2015年退官。拓殖大学大学院国際協力学研究科修士課程修了、博士後期課程(安全保障専攻)単位取得退学。主著に『防災をめぐる国際協力のあり方』(共著・ミネルヴァ書房)。

台湾からの避難民への対応

 中国軍の台湾侵攻に伴って約50万人の避難民が先島諸島に流入すると想定すると、各島嶼の既存施設での収容は不可能だ。このため、主要な島嶼に大規模な避難民キャンプを設け、そこに避難民を収容する必要がある。

 そのためには、避難民キャンプ用地の確保および開設に必要な資機材や物資の備蓄が不可欠だ。なお、避難民の受け入れ手続きや避難民キャンプの開設・管理・運営に必要な基幹要員についても本土から派遣する必要があろう。

 また政府は、台湾からの避難民への対応に備えて、沖縄県や関係市町村のみならず、日本赤十字社などの指定公共機関、国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)などの国際機関、および台北駐日経済文化代表処と協議しておく必要がある。中国軍の台湾侵攻が長期化し、避難民の数が増える可能性を踏まえれば、避難民の日本本土および外国への移送についても検討する必要がある。

政府は沖縄の住民を守る更なる努力を

 沖縄では、住民の避難対応に関して特有の課題があり、加えて、台湾からの避難民への対応という大きな負担もある。政府は、こうした特有の課題や負担を強いられる沖縄に対する支援を強化すべきだ。既に述べた地下施設の整備、避難住民用の備蓄拡充、住民有志の組織化、避難民キャンプの開設・管理・運営に必要な要員や資機材・物資の準備などが、主要な支援内容になる。また、住民や物資の輸送手段を確保するため、政府が沖縄に多くの小型高速艇を提供すべきだろう。

 そして、政府主導で関係機関や住民が参加する国民保護訓練および避難民対応訓練を実施することも重要だ。更に政府は、住民や台湾からの避難民を守るために、中国と交渉することも想定しておく必要がある。

 ウクライナ戦争では、ウクライナ国民の侵略に対する強い抵抗心が政府や軍を支え、ロシアとの粘り強い戦いを可能にしている。もし、ウクライナ国民に強い抵抗心が無ければ、ウクライナ政府は早々に降伏していただろう。つまり、住民の強い抵抗心こそが侵略に屈しないための最大の武器なのだ。

 台湾に隣接する沖縄は日本防衛の最前線である。沖縄の住民の抵抗心が低下し、厭戦意識が高まれば、米軍も自衛隊も沖縄を基盤として作戦を行うことは難しい。そして、沖縄の住民の強い抵抗心を生むためには、住民を守ろうとする政府の更なる努力が必要だ。太平洋戦争において沖縄の住民が受けた苦難を繰り返してはならない。

 
 『Wedge』2021年11月号のWEDGE SPECIAL OPINIONで「台湾有事は日本有事 もはや他人事ではいられない」を特集しております。
 台湾有事とは日本有事である——。日本は戦後、米国に全てを委ねて安住してきたが、もういい加減、空想的平和主義から決別し、現実味を帯びてきた台湾有事に備えなければならない。
 特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。

  
▲「Wedge ONLINE」の新着記事などをお届けしています。

関連記事

新着記事

»もっと見る