中国による台湾への「心理戦」や「認知戦」について、台湾のサイバー攻撃問題の第一人者である沈伯洋・台北大学心理学研究所助理教授から話を聞いた。前編「中国の認知戦に台湾はどう立ち向かっているのか」では、その手法や担い手について語ってもらったが、今回は情報を〝拡散〟させる場について聞いた。
認知戦によく使われるメディアとは?
野嶋:中国が偽情報を流すとき、台湾ではどのようなプラットフォームやSNSを通して流通されるのでしょうか。PPT(台湾で人気がある掲示板)やLINEなどで発信されるのですか。
沈:以前は確かにPPTがよく狙われましたが、かなり減りました。もともと反政府的な発信も多い場所なので、逆に中国は使わなくなりました。いまの主戦場はYouTube、TikTok、Facebookです。Twitterは台湾人が使わないのであまり狙われません。空気汚染に関する情報工作のときもFacebookはかなり使われました。
台湾人はFacebookが大好きで9割の人が使っています。LINEもありますが、こちらの実態把握は難しい。LINEは個人やグループで情報がやりとりされますから。
LINEは二人だけの会話ならば「加密(暗号化)」が行われています。ただ動画は暗号化がないそうです。あとLINEのグループは50人以上だと暗号化はない。LINEは中国企業にデータ管理を委託したこともあり、安全性に心配がないわけではありません。
Facebookのmessengerも同様ですね。SNSツールではTelegramはやや安全です。私などはSignalを使っています。安全性が最も高いからです。問題は中国の微信(WeChat)で、いま台湾でも600万~700万人が使用しています。
微博(weibo)、TikTokもそうですね。こうした中国系のプラットフォームは、中国政府がアカウントを覗き見ることが可能というのが前提です。
野嶋:沈さんのグループは、偽アカウントの特定を行なっていますが、どうやって偽アカウントかどうかを判定するのですか。
沈:一つは中文の入力方法です。中国は簡体字を使いますが、台湾は繁体字を使います。入力方法が違っており、中国では「拼音」、台湾では「注音」を使います。機械的に簡体字から繁体字への変換はできるのですが、変換のときに間違った文字が出てきます。それで怪しいと思った時は、わざと注音の記号表記でメッセージを送るなどして、理解できなければ「おかしい」となります。
写真の識別もよく利用します。例えば、自己紹介で海をバックにした写真を載せていたとすれば、それがどこか調べることができます。福建省の海だとわかると問題ありです。なぜなら福建には中国の「311基地」がありますから。