2023年12月3日(日)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2022年10月6日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト、大東文化大学教授

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

 中国による台湾への「心理戦」や「認知戦」について、台湾のサイバー攻撃問題の第一人者である沈伯洋・台北大学心理学研究所助理教授から話を聞いた。前編「中国の認知戦に台湾はどう立ち向かっているのか」では、その手法や担い手について語ってもらったが、今回は情報を〝拡散〟させる場について聞いた。

(ロイター/アフロ)

認知戦によく使われるメディアとは?

野嶋:中国が偽情報を流すとき、台湾ではどのようなプラットフォームやSNSを通して流通されるのでしょうか。PPT(台湾で人気がある掲示板)やLINEなどで発信されるのですか。

沈伯洋 1982年生まれ。犯罪学の観点からサイバー攻撃を研究し、中国の台湾に対するサイバー攻撃の実態について、台湾メディアに登場することも多い。自らNPOを主催してサイバー攻撃への市民レベルでの注意喚起の必要性を訴えている。

沈:以前は確かにPPTがよく狙われましたが、かなり減りました。もともと反政府的な発信も多い場所なので、逆に中国は使わなくなりました。いまの主戦場はYouTube、TikTok、Facebookです。Twitterは台湾人が使わないのであまり狙われません。空気汚染に関する情報工作のときもFacebookはかなり使われました。

 台湾人はFacebookが大好きで9割の人が使っています。LINEもありますが、こちらの実態把握は難しい。LINEは個人やグループで情報がやりとりされますから。

 LINEは二人だけの会話ならば「加密(暗号化)」が行われています。ただ動画は暗号化がないそうです。あとLINEのグループは50人以上だと暗号化はない。LINEは中国企業にデータ管理を委託したこともあり、安全性に心配がないわけではありません。

 Facebookのmessengerも同様ですね。SNSツールではTelegramはやや安全です。私などはSignalを使っています。安全性が最も高いからです。問題は中国の微信(WeChat)で、いま台湾でも600万~700万人が使用しています。

 微博(weibo)、TikTokもそうですね。こうした中国系のプラットフォームは、中国政府がアカウントを覗き見ることが可能というのが前提です。

野嶋:沈さんのグループは、偽アカウントの特定を行なっていますが、どうやって偽アカウントかどうかを判定するのですか。

沈:一つは中文の入力方法です。中国は簡体字を使いますが、台湾は繁体字を使います。入力方法が違っており、中国では「拼音」、台湾では「注音」を使います。機械的に簡体字から繁体字への変換はできるのですが、変換のときに間違った文字が出てきます。それで怪しいと思った時は、わざと注音の記号表記でメッセージを送るなどして、理解できなければ「おかしい」となります。

 写真の識別もよく利用します。例えば、自己紹介で海をバックにした写真を載せていたとすれば、それがどこか調べることができます。福建省の海だとわかると問題ありです。なぜなら福建には中国の「311基地」がありますから。


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