2023年2月4日(土)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2022年10月6日

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野嶋 剛 (のじま・つよし)

ジャーナリスト

1968年生れ。ジャーナリスト。上智大学新聞学科卒。大学在学中に香港中文大学に留学。92年朝日新聞社入社後、佐賀支局、中国・アモイ大学留学、西部社会部を経て、シンガポール支局長や台北支局長として中国や台湾、アジア関連の報道に携わる。2016年4月からフリーに。著書に『イラク戦争従軍記』(朝日新聞社)、『ふたつの故宮博物院』(新潮選書)、『謎の名画・清明上河図』(勉誠出版)、『銀輪の巨人ジャイアント』(東洋経済新報社)、『ラスト・バタリオン 蒋介石と日本軍人たち』(講談社)、『認識・TAIWAN・電影 映画で知る台湾』(明石書店)、『台湾とは何か』(ちくま新書)。訳書に『チャイニーズ・ライフ』(明石書店)。最新刊は『タイワニーズ 故郷喪失者の物語』(小学館)。公式HPは https://nojimatsuyoshi.com

野嶋:中国のこうしたネット工作に対する台湾政府の対策はどうでしょう?  台湾でも近年対策が強化され、厳罰化もされています。

沈:フェイクニュースと明確に認定できればいいのですが、そうでなければ政府が手を出しにくい。また、摘発を激しくやりすぎると言論の弾圧などと言われる。明確な偽情報と認定できるものを対象に、取り締まっていくしかないのです。

 そこでわれわれ民間の専門家やNGOの出番となります。台湾ファクトチェックセンター(TFC)やMyGoPenなどの団体があり、TFCはフェイクニュースやフェイクニュースを流すサイトへの対策を中心にしています。MyGoPenは、LINEの内容に対して強い検証能力があります。一種の分業体制です。

 「偽新聞清潔」という団体は、地元の自治会長と一緒に講座を開いて、高齢者に何が偽情報で危険なのかを教えています。私の関わっている「民主実験室」は、アカウントの識別を得意としています。このような民衆へのネット工作への警戒の呼びかけはとても大切です。私たちは、アカウントが偽物か本物か、情報を発信しているのは何者なのかを調べています。

 われわれはチャイナインデックスという統計を作っており、外交やメディア、政治、軍事などの99の質問を各国の協力機関に送ってインデックスを作成しています。中国の浸透が進んでいる国別ランキングなのですが、台湾はいま8位で、1位はカンボジアです。

 日本のランクはかなり低く、健全な方です。中国は浸透を試みていますが効果がうまく上がっていないようです。台湾については、特にメディアが最悪の1位ですね。

中国に〝買収〟される台湾メディア

野嶋:なぜ台湾のメディアの環境が良くないのですか。

沈:そこが台湾とほかの国家と違うところです。他の国では中国系企業によるメディアの買収があれば騒ぎになりますが、台湾では2015年、16年あたりにいくつかのメディアがすでに買われてしまった形です。

 その後は個別の記者に接触して記者の志向を変えていくかに工作が進みました。例えば両岸メディアサミットなどを開いて、台湾の記者を呼び寄せ、内々に協力を求めたりもします。いま彼らはさらに中国に好意的な情報を流すユーチューバーを積極的に育成しています。若者への影響力が大きいからです。

野嶋:ユーチューバーなどのインフルエンサーはどうやって「発掘」されるのですか。

沈:若者の間で中国に比較的好意的な言動を取っている人を探し出します。特に親中とは言えない人でも、台湾政府や米国を批判している人は少なくない。彼らに多くの「投げ銭」をあげたり、流入量を増やしたりして優遇します。

 米国を批判していればお金が入ってくると思わせるわけです。この方法など直接の接触を取らなくても影響を及ぼすことができ、反米や反日の人を増やすことができます。

野嶋:利用されている人々は気づかないのでしょうか。

沈:半分は分かっているでしょう。投げ銭はQRコードを使って行われますが、中国のアリペイ(Alipay)やウィチャットペイを使って支払いますので。受け取る方は見て見ぬふりをしています。

 中国政府は実際に彼らとは何ら接触はしていないので、防ぎようがありません。本当に不公平なことです。彼らは自由に工作できて法の保護も受けて、われわれは何もできません。


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