8月に台湾で起きたペロシ米下院議長の訪台、それに続く中国の軍事演習では、水面下のサイバー空間でも「心理戦」や「認知戦」と呼ばれるグレーゾーンの戦いが展開されていた。台湾のサイバー攻撃問題の第一人者である沈伯洋・台北大学犯罪研究所助理教授から話を聞いた。
状況に応じ偽情報の中身が変化
野嶋:ペロシ議長の訪台のときに台湾にもサイバー攻撃がありました。一連の中国による「認知戦」をどのように見ていますか。
沈:ペロシ議長の訪台について、中国は最初ツイッターで活発な情報工作を展開しました。この問題の主要な工作対象は、多くの国民がツイッターを使っている米国だと見ていたからです。私たちの調査では7月30日から31日にかけて劇的に中国のものとみられるアカウントが創設され、多くの偽情報が発信されています。
野嶋:具体的には、どんな偽情報ですか。
沈:基本は、ペロシ議長を貶めるものです。夫に犯罪歴があるとか、台湾から金をもらっているというような陰謀論です。また、ロシア・トゥデイという陰謀論を多く掲載しているサイトがあるのですが、そのメディアの内容をどんどんリツイートして拡散させていきます。
ただ、私の理解では、中国が何かを攻撃しようと決心したら、3~4日前に行動を起こすことはあり得ない。通常は、3~4カ月前から周到に準備を進めていきます。第一波の米国への攻撃はあまりに弱かった。
ペロシの訪問直前まで、動きがなかったわけですから、そこから判断すると、ペロシ訪台の正確な情報を中国は直前までつかめていなかったことがわかります。