2024年11月22日(金)

野嶋剛が読み解くアジア最新事情

2022年10月5日

野嶋:海外で買い取った会社やアカウントは、彼らのサイトを通して偽情報を流すのですか。

沈:これらの会社はそれほど大きくなく、7~8人ぐらいの規模なのですが、多くの偽アカウントを作ります。一人あたり100個ぐらいです。そのあとアタックを始めます。しかし、それはフェイクニュースではありません。

 例えば、17年や18年に彼らは台湾の空気汚染がひどいという話をどんどん流しました。私たちおかしいと思って調べてみたら、2万件の中国系と思われるアカウントを見つけました。そこから、台湾の空気汚染のデータが毎日、毎日、至るところに発信されていました。

 台湾では実際に空気汚染があるから、完全なフェイクとは言い切れません。違法だとして摘発することも難しい。だからなおさら有効な方法なのです。

多岐にわたる認知戦工作の担い手

野嶋:こうした認知戦工作を担っている中国政府の部門はどこなのでしょう。

沈:共産党中央宣伝部は重要な役割を持っており、自分たちの宣伝チームがあります。台湾問題を担当する国務院台湾事務弁公室も同様です。でも、やはり一番重要なのは、人民解放軍のなかの心理戦を担当する部署です。また、統一戦線部にも同様に宣伝工作を担当する部門があります。ただ、統一戦線部には自らの傘下にあるネット部隊はいません。上層部の会議で攻撃をするとなれば、解放軍などほかのところに委託します。

 あとは中国共産主義青年団です。彼らはとにかく人数が多い。共産党員の若手がぜんぶ束になれば台湾などあっという間に情報の波に巻き込まれます。

 ほかにも国家安全部がありますが、彼らは主に、台湾の記者たちに接近して、中国に有利な記事や論評を書かせようとしています。さらに武警がいて、彼らは海外各地の留学生や同郷会などのグループに協力者もぐりこませて情報を得たり誘導したりしようとしています。

野嶋:ということは、本格的なネットアーミーはやはり人民解放軍ということですか。

沈:そうです。ただ「水軍」と呼ばれるグループもいて、正式な軍隊にはない外部の人々を指します。水軍はとにかく多すぎて把握すら難しい。以前、彼らは「五毛党」と呼ばれていましたが、最近は値段が下がって二毛(情報の発信1回に対する対価=五毛をもとに呼ばれるようになった。一毛=一元の10分の1)になったので「二毛党」ですね。

 
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