ナンシー・ペロシ米下院議員による台湾訪問は、台湾社会に熱狂的反響をもたらし、「ペロシ現象」を引き起こした。もともと短時間の訪問と目されていたが、実際は1泊2日の日程となり、蔡英文総統との会見、国際記者会見、立法院(議会)との交流、世界的半導体企業TSMC幹部との面談、人権博物館への訪問などがアレンジされた。これらの行程のほとんどはTVで生中継され、さながらペロシ議長による電波ジャックだった。
そのなかではペロシ議長が履いていたハイヒール(高さ7〜10センチと台湾メディアは推測)に注目が集まった。「82歳で10センチのピンヒールを履いている」と話題が沸騰。当日の夜、ニュースキャスターたちは、ペロシ議長が着ていたピンクのジャケットに白のインナーを身につけ、ハイヒールをはいてテレビに登場した。
ネットでもリアルでも沸いた台湾
オードリー・ヘップバーン似の若い時代のペロシ議長の写真がフェイスブックで次々とシェアされた。ペロシ議長が滞在した台北市の新都市地区「信義区」のホテル「ハイアット・リージェンシー」の向かいにある台北のランドマークタワー「101ビル」では、おそらくペロシ議長の泊まった部屋から見えるように「Speaker Pelosi」「Welcome TW」「美台友誼永久」「TW♡US」のネオンサインで歓迎を示した。
そもそも台湾到着の過程もショーじみていた。ペロシ議長の台湾訪問には事前に中国が反対し、バイデン米大統領も消極的な姿勢を見せていた。訪問リストからはいったん消え、台湾に行かないかもしれないとの情報が流れ、台湾訪問も公式発表は到着まで行われなかった。
それだけにペロシ議長一行の行方が注目され、前の訪問地であるマレーシアから飛び立ったペロシ議長を乗せた米軍要人機は「SPAR19」という識別名が分かっており、リアルタイムで航跡を追うことができるウェブサイト「フライトレーダー24(Flightradar24)」に台湾人は釘付けになった。同サイトでは過去最多という70万人以上がペロシ機の動きを見ていたという。その多くが台湾人だったと見られる。
ペロシ機は最初、出発地のマレーシアから東にまっすぐ向かった。本来ならば北上が最短距離だが、それには係争地の南シナ海の上空を超えなければならない。安全のためにフィリピンの東側から弧を描くように台湾に飛んだと見られるが、フィリピン近辺で台湾に向けで舵を北に向けたときには「台湾に来る!」と歓喜が広がり、台北市の上空でしばらく旋回していたときはサイトから確認しづらくなり「消失した!」とこれまた騒ぎになった。
そんなペロシ議長の訪問の翌日の3日、筆者は日本から台北松山空港に向かった。午後5時(日本時間午後6時)にランディングすると、一連の日程を終えたペロシ議長の出発が1時間後に迫っていた。