蔡英文総統との会見では「米台は非常に密接なパートナーであり、運命共同体であるだけでなく、共同の安全保障問題を持ち、相互関係を進化させて両国の人民の生活を守らなければならない」として、「米国は台湾に対する約束を決して裏切らない」と語った。
また、ペロシ議長が台湾を離れるときにツイッターで発信した談話で「台湾の人民の声に耳を傾け、彼らから学び、彼らを支持するために台湾に来ました。彼らは世界で最も自由で開放的な民主政治体制を打ち立てました。台湾は特別な場所です。米国の重要な盟友であり、民主統治の典範でもあります」と述べている。
台湾の人々は、自分たちが1990年代の民主化開始以来、無血で民主選挙を積み重ね、自由と繁栄を維持してきたことを誇りに感じている。その台湾人のカタルシスに届く言葉だった。
緊張高まるも、台湾側に後悔はない
台湾人が現在の中国の政治体制に対して共感を持てず、むしろ心が離れていく一方なのは、中国の現体制が、台湾社会が実現した自由や民主や平等にまったく無頓着でむしろ無価値のようにみなし、中華民族は一つ、共産党の指導のもとでの愛国こそ全てという国家統一の論理のみを押し付けられるところに根本原因がある。
前述のように、ペロシ議長の訪問は実質的に米中台関係の具体的変化をもたらしたものではないかもしれない。逆に、4日から始まった軍事演習によって台湾経済は打撃を受け、激しい恐怖を与えられた。しかし、いまのところ台湾メディアでは、ペロシ議長が来ない方がよかった、台湾は利用されただけだという意見は、ゼロではないが、少数派だ。
ペロシ議長訪問への制裁として、軍事演習で排他的経済水域(EEZ)にミサイルを撃ち込まれ日本も、台湾の側について中国を批判する形になり、中国VS日米台という構図が形成されている。ペロシ議長の台湾訪問は、東アジアの安全保障環境を激変させた。そのことは、台湾にとってプラスもあれば、マイナスもあるだろう。
それでもペロシ議長に台湾人が恨みを感じていないのは、台湾人の内的心理にある「穴」を、彼女の言葉と行動が埋めてくれたからに他ならない。
安全保障と言えば、真っ先に「軍事」を思い浮かべる人が多いであろう。だが本来は「国を守る」という考え方で、想定し得るさまざまな脅威にいかに対峙するかを指す。日本人が長年抱いてきた「安全保障観」を、今、見つめ直してみよう。
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