野嶋:確かに中国と台湾、中国と日本は非対等ですね。こちらの言論市場は開放されているのに、中国は開放されていない。彼らは自由に往来できる。こちらは防ぐことしかできない。
沈:彼らは私たちの弱点を突いているのです。もちろんこっちも攻撃に行けばいいという人もいます。攻撃すれば守りに時間を割かれるので攻撃は減るだろうと。でも、そこにはモラルの問題もあります。そんなことをやっていいのかと。
彼らが使っているカンボジアの企業や台湾の企業をわれわれが責任を追及しても、お金は先払いされているので、ややこしくなったら仕事を仕舞ってしまえばいい。ですから攻撃イコール防御にならないのです。
日本を嫌わせるイメージ戦略も
野嶋:日本に関する認知戦の攻撃もありますか。
沈:日本についてもさまざまな攻撃が見られます。台湾へのワクチン支援がいい例でしたね。「期限切れのワクチンを送っている」という類のものです。それに対して台湾の野党が与党を攻撃する形になります。
ほかにもフェイクニュースでは、米軍と日本の自衛隊が一緒になってウイルスを開発しており、新型コロナもそういうものだと。バカバカしいですが、信じる人が意外にも多いのです。
台湾のある大学でアンケートをとりました。そのうち6割の学生が台湾はフェイクニュースの攻撃を受けていると答えています。ここまではいいのですが、その攻撃をしている相手を選ばせると、3割が中国、2割が日本と米国を選びました。
これは中国が作り出している状況なのです。若者は中国を嫌っています。だから、日本も米国も一緒に嫌わせる。それが中国の戦略です。
「中国も日本も米国も大差ない」と思わせるわけです。そして、中国はそこまで悪くないよ、という情報を流していく。中国が自分で自分のことをほめても誰も聞いてくれませんので、彼らに中国をほめるように誘導していくのです。
中国には多くの日本語のサイトがあります。そこでは中国にとって都合のいい情報を流すために中国当局の資金で作られており、日本語で日本の悪口や中国に都合のいい情報を流しています。
野嶋:台湾はどのように安全で健全なネット感情を作れるでしょう。
沈:やはりSNSのプラットフォーマーたちにどのように責任を負わせるかです。彼らがアカウントの削除や発信の制限にどのような基準を用いているのか、私たちにはわかりません。
統一ルールがあるべきだし、民主社会の中で法律によってプラットフフォームに彼らのルールを明らかにさせるよう求めるべきです。これは言論の制限ではなく、言論の自由の中で透明性をいかに実現するかという問題です。
中台軍事衝突という最悪の事態を招かぬこと、そして「万が一」に備えておくことが重要だ。政治は何を覚悟し、決断せねばならないのか、われわれ国民や日本企業が持たなければならない視点とは何か——。まずは驚くほどに無防備な日本の現実から目を背けることなく、眼前に迫る「台湾有事」への備えを、今すぐに始めなければならない。
特集はWedge Online Premiumにてご購入することができます。